第一章:エピローグ
不安がありました。
やっとその重い腰を上げて才能に見合う努力を初めてくださったネグレア様が、怠惰な当主様との再会で元に戻ってしまったならばどうしよう。
そんな不安の中、帰ってきたネグレア様は……こう、なんというか、こう……白い全身鎧に赤黒い紋様が拵えられた……ダークナイト的な存在を連れて帰っていました。
……普段はネグレア様に興味がないメイド達もこの時ばかりは集まって「ダークナイトだ……」「ダークナイトって実在したんだ」などと言って集まっていました。
と、まあ、その騎士アルテノ様とネグレア様は剣術の練習を始めて、その上で魔法の練習も継続して行なっていてより一層の修練に励んでおられます。
その上、私から当主としての仕事を教わりたいとまで言われて、そのときは涙で前が見えなくなるかと思いました。
ああ、素晴らしい、ネグレア様は素晴らしい方だ。
私がネグレア様の魔法を見ながら喜びの舞いを踊っていると、メリル嬢からドン引きの目で見られたので我慢することにします。
ネグレア様に血統魔法を教えるための家庭教師として連れてきた彼女ですが……。
彼女もネグレア様ほどではありませんが傑物です。
意味はよく分かりませんが「まぁメリルは上澄みも上澄みの主人公の仲間の中でも抜けてるから、そりゃな」と褒めておりました。
少し発育に不調こそあるものの、利発で要領と物覚えがよく体力があり努力家。
ネグレア様のような飛び抜けた鬼才ではありませんが隙のない秀才であり、何よりもネグレア様の心の支えになっているように思えます。
そろそろ当主様に代わってネグレア様の婚約者探しをしようかと思っておりましたが、メリル嬢がいるならそれでも良い。
いえ、それが何よりでしょう。
今からおふたりの子供が楽しみ……ふふふ、優秀なふたりを掛け合わせたらより優秀な子が……。
と、ワクワクして過ごしていたのですが……。
チッ、どうやら健全なご関係を保っているらしく、チッ、ついに魔法学校の入学の年になっても初々しい様子で過ごしておりまチッた。チッ。
まぁそれはともかく、唯一の懸念である婚約者も問題ないようで、安心でございます。
魔法学校も……ネグレア様はお気付きになられていませんが、もはや主席どころか教師達ですら足元にも及ばぬほど魔法を極められているので、何の心配もなく、その名と実力を知らしめてくれることでしょう。
「……さて、と、私ももうネグレア様に教えられることはありませんね。……そろそろ、部下に仕事を引き継いでいかなければ」
先代様がなくなられてから開いていた穴がすっかり塞がっていたことに、王都へと旅立つおふたりを見送りながら気がつきました。
◇◆◇◆◇◆◇
いつのまにか、少しずつメリルが普通の食事を摂れるようになっていた。
夜の奇食は今も趣味として続いているけれど、きっとメリルの心が癒えてきた証左なのだと思う。
パクパクと朝食を食べているメリルを見ていると、彼女は不思議そうに首を傾げる。
「どうしたの?」
「いや、なんでも。……魔法学校、寮生活かぁ」
「これから世界を救う手助けをするのに、寮生活が不安なんだ」
俺の言葉にメリルがクスクスと笑う。
「そりゃなぁ。……まぁ世界の方も心配だけど、おおよそなんとかなる見込みはあるしな。……メリルの故郷も、ちゃんとな」
「うん。……学校、可愛い子がいても浮気はダメだからね」
俺の言葉に頷いたあと、照れ隠しのようにメリルはじとーっとした目で俺を見ながら話す。
「分かってるって」
「その不幸になるから助けたいってセラちゃんもだよ」
「大丈夫だって」
「……ボク、結構ヤキモチ焼きだからね」
「知ってるよ」
いつものように返すと、メリルは「なら良し」と嬉しそうに頷く。
「不幸になってしまう人を救う、世界を救う手助けもする、メリルの故郷を救うための仲間も見つける……で、学校生活も送る……か。まぁ忙しいけど、なんとかなるか」
俺がそう言うとメリルも頷く。
全力は尽くす……けれども、自分の身を犠牲にはしない。俺が犠牲になれば、俺以上に傷つく人がいるのだと知ったから、もう決して自分を蔑ろにはしない。
そう誓いながら、俺とメリルは魔法学校にへと旅立つのであった。
悪役貴族は脇役ヒロインを救いたい。〜ゲーム知識とチートスペックで魔法を極めて破滅エンドを踏み躙る〜 ウサギ様 @bokukkozuki
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