第49話 どっかの学園の文化祭(後編)

りんご飴を無事食べきってその後の仕事もこなした俺たちは、次なる場所へ向かっていた。


「おまもり屋大盛況だったな.....。」

「宵川さんの言ってたことは間違いじゃなかったな。」


"高校生はお守りや占いにすがりたいお年頃"

ちょっと彼女の言い方がアレだが、あの盛りあがりをみたらああいった言い方をするのも少し納得できた。


「腹減ったよ......。」

「それなー、ちゃんとした飯食おうぜ。」

「じゃあ......腹ごしらえにメイド喫茶行くか。」

「クラス長、あんま腹をこしらえるメインの場所ではないぞ?」


別校舎の三階まで歩いてより腹をすかし、家庭科部員達がやっているらしいメイド喫茶方面へと足を運ぶ。


「......え、ちょっと待って、マジで入る?」

「え、なにクラス長......急に緊張してんの?」

「いやなんか急に大丈夫かなって思ってきてさ。」

「そんな緊張するもんじゃねえだろっての。」

「いやそう言ってるけど俺も仲田も全然足進んでないぞ。」


大きく足を上げているのに、まるで透明な壁にぶち当たっているかのようにその場で足踏みをしてしまう俺達。


「.......てか二釈は?」

「え、あれ.....あ!あそこ!」


二釈はオドオドしている俺達よりもかなり前まで進んでおり、堂々としながら廊下で店番をするメイドさんに話しかけている。


「二釈.....すげえなアイツ。」

「俺達の進めない謎の壁を。」


彼がこっちを向き手招きをすると、パッとその壁が崩れたかのようにどんどんと先へ進むことができた。


「大丈夫か二人とも......。」

「いやマジで、すげえな、マジで。」

「二人に隠れて一番楽しみにしてたからな.......。」


彼がそう言って開けた扉の先を後ろから覗くと、白の壁と緑の床で構築された廊下とつながっているとは思えないほどキューティな薄ピンクが基調となっている、学校とは真逆のような世界が広がっていた。


「おかえりなさいませ、ご主人様!」

「って湯瑠川さん!?」

「......え、仲田くん!?」

「それに鈴菜さんも!」

「......どうも。」


俺たち三人の前には同じクラスの湯瑠川さんと鈴菜さんがメイドさんのコスプレをして立っている。


「これはタイミングが良いのか悪いのか。」

「わるいですよ!」

「こら湯瑠川さん、ご主人様への言葉使い。」

「鈴菜さんは案外乗り気なのかよ。」


鈴菜さんは丁寧に俺たちを招き入れ、空いている席へと案内すると手に持っていたメニュー表をスッと起き、お店の説明をし始めた。


「お水お持ちいたしますので、少々お待ちください。」

「あ、はーい。」


彼女はスッと一礼してスキのない所作で廊下へ出る。


「隣の家庭科室で作ってるのか......。」

「鈴菜さん、冷静なタイプのメイドさんだったな。」


落ち着かなかった心はクラスメイトのおかげかいつのまにか安らかになって行き、ゆったりとお水を待っていると、扉の方からぎこちない動きの湯瑠川さんが片手でおぼんを持ちながらこちらへ運んできた。


「仲田くん達、なんでよりによって今なの!」

「いや申し訳ないけどね、俺達もこの時間だったとは知らなかったんだよ。」

「ほんとにはずかしい......。」


彼女は俺達と目を合わせないように反らしながら机の上に水を三つ置き、プラスで小さなお皿を三つ置いた。


「え、これは?」

「なにって、お通しだけど。」

「え、お通しとかあんの?」


置かれた小鉢の中には少量のたこわさが。


「え、居酒屋?」

「なに仲田くん、文句ですか?」

「いやそういう訳じゃなくて、メイド喫茶ってそういうもんなの?」


彼女はメニュー表を指差して、早く選んでくれという顔でこちらを見つめる。


「いいからそっちのメニューから選んでください。」

「わかった......えーっとなになに、枝豆、いももち、鳥皮ポン酢......いやこれやっぱ居酒屋じゃない!?」


仲田が開いた表には筆で書かれた丸文字のようなフォントで商品が書かれており、商品のラインナップも明らかに居酒屋メニューであった。


「じゃあ俺鳥皮ポン酢で......」

「なんで二釈は違和感もってねえんだよ。」


その時、ガラガラと扉を開けると申し訳なさそうな表情の鈴菜さんがこちらへ小走りでやってきた。


「ごめんなさい三人とも、これ忘れてました。」

「え?」


彼女が置いた大きな紙は、サッとした筆文字で"本日のおすすめメニュー"とかかれたメインとはまた別のメニュー表だった。


「やっぱ居酒屋だよねこれ!」

「だから居酒屋じゃないです!」

「本日のメニューって、文化祭なんだから本日しかないじゃん!」


仲田はまっすぐなメイド喫茶を楽しみにしていたのか、相当トリッキーなお店だったことに肩を落とす。


「俺......オムライスとか食べたかったよ。」

「オムライスありますよ、ちゃんと見てください。」

「え、マジで?」

「ほら、だし巻オムライス。」

「だしで巻くなよ!居酒屋になっちゃうから!」


どんどん外側のメイド像が剥がれ落ち、内側から居酒屋が顔を出す。

きっと家庭科部内でどっちをやりたいかで揉めたんだと思う。


「たまごの中にいっぱいのとりそぼろが入ってます。」

「じゃあ居酒屋メニューじゃねえかよ!」

「付け合わせのほうれん草と一緒に食べてくださいね。」

「もうそれオムライスっていうか鶏そぼろ丼じゃねえかよ!」

「......もう、じゃあどうするんですか?食べないんですか?」

「......食べるよ!!」


ほどなくしておちついた仲田は、一度深呼吸をして鶏そぼろオムライスを待つことに。


「深呼吸して気づいたわ、めっちゃ和食の匂いすんじゃねえか。」


仲田に言われて言われて気づいた。

もしかしたら心が落ち着いたのはクラスメイトのおかげだけじゃなく、和食特有のだしっぽい匂いが流れていたからなのかもしれない。


――しばらくして扉が開き、クラスメイト二人が入ってくると机の上に頼んだご飯がずらりと並ぶ。


「机の上だけ見たら完全に居酒屋じゃんか。」

「おまたせしました、こちらだし巻オムライスです。」

「え、仲田めっちゃ美味そうだぞ!」

「ありがとう、じゃあいただ......」

「え、まってください!」


仲田がスプーンを取り出そうとしたその時、湯瑠川さんと鈴菜さんはパッと目の前に手を出す。


「え、なに。」

「あんなにメイド喫茶に拘ってたのに、"あれ"をやらないんですか?」

「"あれ"?」

「ほら、卵の上に描く"あれ"ですよ。」

「え、でもケチャップは合わないんじゃ。」

「ケチャップじゃないです!」


彼女は鈴菜さんが持っていたドレッシングのボトルを受け取り、軽く振る。


「え待って、なにそれなにそれ。」

「なにって......あんかけですよ。」

「あんかけ!?」


中には彼女に説明された通り、とろりとした餡が入っているのが分かる。


「じゃあ、なにを描いてほしいですか?」

「え、じゃあハートで。」

「......ほかじゃだめですか。」

「湯瑠川さん、ご主人様のお願いはちゃんと聞いて?」

「......鈴菜さん、助かります。」


頬を赤くしながら恥ずかしそうにボトルのふたを開けると、彼女は大きなハートをオムライスの上に描いた。


「......まあ、そりゃあちゃんと描けるわけないか。」

「まあとろみがある程度だし......。」


ハートのように描いた餡はとろーっとオムの上を滑り落ち、美味しそうなあんかけ鶏そぼろご飯へと変わった。


「じゃあ湯瑠川さん、一緒に魔法かけるよ。」

「......うん。」


手でハートを作った彼女達は、あんのかかった和食に向かって魔法たるものをかけ始めた。


「.,....もえ、もえ、キュン。」

「っすうーっ......。」


仲田が注文の時まで持っていたはずの怒りは、恥ずかしそうに魔法をかける同じ委員会の女子によってサッと吹き飛ばされた。


「俺らもオムライスにすりゃ良かったな。」

「あぁ、しくじったな......。」

「一応、二釈君の鳥皮ポン酢とクラス長のいももちにも魔法かけられますけど......。」

「「えー、じゃあお願いしても......?」」


魔法の力で美味しくなった気がした俺達と、プラスで合わせ調味料によるパワーで大満足な顔をする仲田であった。

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