永遠の星

月ヶ瀬 杏

空の星


中学一年生のとき、ママが死んだ。

 病気で数年間入退院を繰り返していたから、治ってほしいと願う反面、いつもどこかで覚悟していた。


 ママとの思い出はそれほど多くは残っていない。それでも、私が思い起こすことのできるママの記憶は、どれも楽しくて幸せなものばかりだ。


 ママの笑顔を。体温の低い手を。優しい声を。目を閉じれば全部、鮮明に思い出せる。


 葬儀中、パパも妹も、それから親戚の人達も、若くして逝ってしまったママが不憫だと泣いていた。でも私は泣かなかった。葬儀に参列した親戚達に冷たい子た、と陰口を叩かれても、泣いたりなんてしなかった。


 もう、どこにもママがいない。それは頭では理解しているし、この目でちゃんと確かめた。


 だけどそれが事実なら、あまりにも現実感がなさすぎる。


 目を閉じればすぐに、ママと過ごした日々が蘇る。それなのに、今はもうそれが思い出になっているなんて……。信じられなくて、涙が出ない。


 葬儀が終わった日の夜、パパが私と妹を呼んだ。

 ずっと泣き続けている妹と無表情のままでいる私に、パパが小さな星のキーホルダーを一つずつ渡してくれた。


「ママは空のお星様になったんだ。これからは星になって、パパやお前達のことをいつも空から見守ってくれるんだよ」


 私はパパの顔を見上げて、手の平に落とされた星のキーホルダーをぎゅっと握り締めた。


 あぁ、だからだったんだ。それを手のひらに包み込んだ瞬間、胸の中に抱き続けていたママの死に対する違和感が、溶けるようにすっと消えた。


 ママはいなくなったわけじゃない。星になって空から私達を見守っている。


 あの日パパがそう言ったから、私はママの死を受け入れることができた。それなのに――……。


 ねぇ、パパ。あのときパパが言ったこと。あれは嘘だったの――?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る