闘争、逃走?

 商人が迎えに来たので、スレイはわざとヴィンに髪を手で浮かして見せた。

 ヴィンは感心しないまま見送る。

 緊急でもやらない方がいい。

 スレイは上の客室に上がると、個室があるのかと思ったがそうでもなかった。下よりはマシなだけで仕切られたテーブル席が、しかもそんなに綺麗でもない席で数人がいた。

 商人は自慢げに席に紹介した。

 見ただけでは普通の人には、スレイが召喚獣なのかはわからない。術を使われて死ぬときにわかるくらいだ。

「お連れの方は?」

「今頃ふて寝してますわ。こんな素敵な殿方に興味ないんですのよ。田舎ものですわね」


 ヴィンはくしゃみをしつつ下層へとつづく階段を降りた。周囲に気をつけつつ覗いたところで手鎖と手枷をした女たちがいた。

 上ではうまいもん食ってるのか。

 ひとまず上に戻った。

 スレイが戻っていた。

「奴ら奴隷商人よ。これ」

「あ?」

「あなたのサンドイッチ。多かれ少なかれこの船の奴らは関わらないもんはいない。救ってこなかつたの?」

「海の上だよ。逃げようがない」

 サンドイッチを食べた。

 救命ボートで連れ出すしかない。

 スタリングの港で降ろしてどうするの?

 ヴィンはスレイを連れて甲板に上がると、救命ボートを指差した。奴隷をあれに乗せて海へ降ろすから、スレイは甲板の連中を片付けてしまえと話し、ヴィンは下へ降りた。

 片付ける。

 皆殺しにしろではない。


 ヴィンは奴隷番を脅した。

 鍵を出させて檻を開けさせた。

「そこまでよ」

 奴隷の中に仲間がいた。

 忌々しい。

 救われるという安堵の表情が一気に暗くなってしまったのがつらい。

 船が波に軋んでいた。


 殺した奴らを海へ捨てた後、救命ボートに乗って待っていたが、すぐに上がってくるヴィンが来ないので、スレイは心配で下に来た。

「ヴィン、何してるの?」

「捕まった」

「もお」

「おねえさんも」

 スレイの姿が消えた。

 乗組員が血溜まりに転げた。

 戦場でアマンダとやりあっただけはある。

 鍵で手枷を外した。

 奴隷を逃がした。

「グラン、みんなを案内しろ。途中は僕たちが何とかする。スレイ、殺しすぎるな」

 救命ボートに乗せた。

 滑車で海へ降ろす。

 発砲音がした。

 スレイが海へ落ちた。

「グラン、漕ぐんだ」

 ヴィンが飛び込んだ。

 朝焼けの海はスレイを照らしていた。

 スレイをボートに引き上げた。

「魔法弾だ」

 ずぶ濡れのヴィンがスレイを抱いた。

 奴隷は漕がない。

「おまえたちもグランを手伝え」

「ないのよ」

 キツネの耳をした彼女が漕ぐものがないのだと訴えた。船からひも付きの鉤手が投げ込まれてボートはスタリングの港が見えるところまで波をえい航された。

「ごめん。油断した。これじゃわたしが奴隷たちを殺そうとしてるのと同じ」

「違う。わたしたちは希望をもらえた。ほんのわすがでもね。港が見えれば泳ぐわ」

 キツネが話した。

 魔法弾は体に残らない。

 撃たれたときは処置は同じだ。

「サイクロプスの剣が守ってくれたな」

「でも痛い」

 シュミットの功績の一つ、戦局を変えた一つだと言われているが、シュミットは戦争を終わらせるために戦争の道具を作るなど本末転倒だと話してくれたことがある。人を救うために人を殺すのだ。たいていの人は生まれて人殺しなどせずに暮らせるはずなのに、戦争というのはすべてを変える。

 船の上から、

「動けば奴隷含めて一人ずつ適当に殺すぞ。おとなしくしてても海に放り出される」

 笑った。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る