役所
村に役所などない。
近くの町へと出向いた。
頼むから魅力は使わないように。
「誰からともなく使うわけないのよ」
ヴィンは幌馬車で町へと行く。
三人は町の隅で降り立った。
朝市を抜けた。
スレイはキョロキョロしていた。
「凄い。町?戦争は?」
「終わったよ」
「あれはトマト?」
買わされた。
ぼたぼた零しながら食べた。
ヴィンは町の真ん中にある、賑やかな木造二階建ての建物に入る。
召喚獣課。
「対召喚獣対策一級」
この証明書がなければ話にならない。一級は召喚獣に対して捕獲、返還、殺害まですべて一人でできる、ちょっと難しい資格だ。
クロノス軍人証。
やる気のなさそうな老婆が覗き込んだ。
「で、これがラマル族のスレイです」
「よろしく」
スレイはニコッとした。
ひとまず保証人はヴィンということで、預託金として銀貨一枚を渡した。
銀貨なんてはじめて見たぞ。
役人や人々が集まってきた。
「クロノス返還施設までの同行許可をもらいたいんですけど」
「捕縛の方法は?」
「手枷」
「半カペルです」
「買うの?あるんだけど」
ここで封印がしてある新品でないといけないらしい。そこからたらい回しにされた。
同行許可は旅券発行課。
身元保証は戸籍課。
戸籍課へ行くと、
「召喚獣の一時戸籍は召喚獣課だよ」
と素っ気なく追い払われた。
村への依頼が出ているから、村からの謝礼申請は警察の仕事だと告げられた。
「どこ?」
「前の道を出て右へ行くと見えます」
くそったれ。
警察でも待たされた。
どうにか氏名と所属を伝えて、逮捕状と謝礼申請を手に入ることができた。
村へと戻ることになった。
行き来の幌馬車の運賃がいるのか。
「消えようか?」
「悪いね」
「裸になるけど」
「このままでいいや」
村は湖から直接、行った方が早かったが役所と警察の書類がいるので面倒をした。
村人によると、
「五つの村の連合が話し合って決めたのでアラクラ村へ行くことだ」
と言われた。
アラクラの村?
「湖の向こうだ。ここから歩いて一日くらいかかる。ここには馬もないでな」
途中、野宿をした。
グランが火をくべた。
「もう戦争はしてないの?」
「してないね。かれこれ十年くらい前に終わったんだよ。小さないざこざはあるけどね」
干し肉を焼いた。
グランはかいがいしく働いた。
「あれは万が一のための食料なの?」
「あれは小間使いだよ。食べないし食べてはいけないから」
「なぜ食わないの。あんな弱いのは食料にすればいいのに。ま、人はうまくないからね」
グランは聞き耳を立てていた。たいていの召喚獣は人を食うことは知識で得ていた。
スレイは寝床に忍び込んできた。
滑らかな指で腹を撫でてきた。
舌で首筋を。
「んん?」
スレイは止めた。
地面に弾が跳ねた。
「てめえ、仲間の敵だ!」
銃撃された。
一人が遠くから狙撃、二人は近くで拳銃を手に交渉しようとしていた。
「身ぐるみ剥いでやる」
スレイが不機嫌だ。
ようやく眠れるのにと。
ヴィンはスレイを止めたが、止まるはずもなく二人を倒した。ヴィンは焚き火の前に立ちつつ的になると、狙撃を斬り捨てた。
「トドメはダメだ」
「コイツらどうするの?」
村へ連れて行くことにした。
翌朝、村へと出向いた。
歓迎ムードではない。
狙撃手が村にいて何やら吹き込んだらしく懸賞金を出し渋られた。
スレイを置いていけと村人が叫んだ。
血気ある者が石を投げてきた。
「あたっ……」
スレイが不機嫌に零した。
絶対に暴れるなよ。
念を押した。
ヴィンは剣を抜いて、石を一瞬にして砕いてみせた。役所の書類を見せた。まだ老人が出し渋るので、賞金稼ぎを井戸に落とした。
ようやく出した。
「いくら?」
「三ゴルドだね」
「金貨三枚か」
「ま、金貨はない」
集会所なテーブルでグランに数えさせている間、村人代表と話した。
「文句は召喚主に言えばいい」
「どこにいるのかわからん。村を守ってくれると思うてたが巻き込まれただけだ」
「知らないわよ。何でわたしがどこの誰かも知らない奴らのために命かけなきゃなんないわけ?召喚主とやらもいないのに」
ごもっとも。
グランは一シルベ足らないと答えた。
ヴィンは保存食で出させた。
「これが領収印だよ。これを君たちが役所に渡したらおしまいだ。賞金稼ぎは君たちにあげるよ。武器はもらうけど。馬三頭」
「一シルベにしては」
「安い。賞金稼ぎもくれてやるんだ。働かせるかどうかすればいい。僕らは行くから」
三頭、代金代わりの馬をもらった。
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