4話 In the safe
「ただいま」
ジャックの声が、いや、事を始める前の警戒に満ちた声が「ハーヴィー家」に伺いを立てた。
「今、ここに居るか?」と。
幸か不幸か、家は無言を返答として彼に突きつけた。
声がしないと言う事は、マムもダッドも出かけているのか。
ジャックは「そう言えば、ガレージに車がなかったな」とボソリと呟いてから、のっそりと家の中に入った。
彼は毅然と、とても勇ましい歩みで「ある場所」へと向かう。
いつもの様に、一階にあるリビングに直行と言う道からは外れていた。
ジャックはトントンと階段を上り始める。
自室のある二階に到着するが。決意に満ち満ちた足は、自室と言う自陣に向かっていたのではなかった。
スッと、階段を上がってすぐにある自室の前を通り過ぎる。
キィキィと、熱を帯びた足に踏みしめられた床が悲鳴を小さく零していた。
ジャックは、その音をどこか遠くに感じていた。
今の彼に届くものは、沸々と熱を上げていく決意だけである。
ジャックの足が、ゆっくりと止まった。
カチャと眼前に塞がる扉を開き、我が物顔で入って行く。
そこは、自分の暮らしていた「子供」部屋よりも広く、落ち着いた色の家具で纏められた夫婦の寝室だ。
部屋は主達ではない、別の存在をがらんとした静寂で迎えた。ここは貴方の部屋じゃないと彼を否定する事もなく、また別の時に来てくださいねと拒絶する事もない。
ジャックはスッと二人のベッドの方へ寄っていく。
ゆったりと広さのあるクイーンサイズのベッドに、用がある……訳ではないらしい。
ジャックは「確か、ここにあったはず」とボソボソと呟き、傍らに置かれている黒色のベッドサイドテーブルの前で止まった。
そして少し背骨を丸めて屈み込み、一番下にある棚の抽斗を開ける。
ガラッと開くと、シルバー色の長方形が真っ先に現れた。
「やっぱりな」
ジャックは目を爛々とさせながら、そのシルバーの長方形に手を伸ばす。
彼の手に乗ったずしりと重みのあるソレは、小さな金庫だった。その扉の番人として、ダイヤル式のロック錠がつけられている。
ジャックは四桁の数字を合わせなければ開かぬ錠にふむと小さく鼻息を吐き出した。
そしてカチャカチャと一番上の錠からダイヤルを捻って、数字を合わせていく。
「二、零、三……六、と」
カチャッ
甲高い音が小さく弾けると共に、錠のバランスが片方にガクンッと傾く。
ジャックは傾いた錠を手の平で軽く受け止めてから、金庫にかかっている鍵穴から取り外した。
鍵が取り払われた金庫に手をかけ、徐に開ける。
そうして金庫の中で護られていた存在に、彼は手を伸ばした。
ソレはジャックの決意を果たす為の代物であり、世界を一転させる為の代物……コンシールドキャリー、S&W社の小型銃だ。
指先が掴み、外の世界へ引っ張り出したソレをジャックはしっかりと握りしめる。
「これで、普通に戻れるぞ……!」
ドンッと突き上がった喜びが溢れた。
ジャックの独り言を全身で受け止めた銃は、彼の掌中に静かに収まるだけであった。
・・・
椿野小話です😳
私、銃器とかには疎いので検索して、色々調べたんですね。それで、コンシールドキャリーが小型の銃を指すって言うのは分かったんですけど、種類がいっぱいあって……駄目だ。分からん状態になりまして😳なので、調べたにも関わらず、結局は適当に上らへんにあったのを選んで決めたと言う形に……w
なので、その会社の銃だと金庫に入らなくね?と思われる方がいらっしゃいましたら、自分の中で金庫に入る小型の銃に変換してくださいませw(ぶん投げっ!w
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