第2話「星条旗の再誕」

 2025年4月2日、シカゴの反乱は火種にすぎなかった。統一情報局のタワーで私が目撃した映像は、瞬く間に西側自治連邦全土に広がった。親アメリカ派のレジスタンス、「星条旗の息子たち」が動き出したのだ。彼らは旧アメリカの象徴である星条旗を掲げ、ソ連の支配に抗う意志を燃やしていた。


 私はモスクワの監視室で、上司の怒声に耐えながらデータを追っていた。シカゴの若者たちは地下に潜り、ゲリラ戦を展開していた。驚くべきことに、彼らはソ連の監視網を掻い潜る技術を持っていた。暗号化された通信、ドローンによる撹乱、そして何より、人民の支持。西側自治連邦の市民が、密かに食料や情報を提供しているらしい。


 レジスタンスのリーダーは、エリザベス・ハドリーという名の女性だった。元アメリカ海兵隊の将校で、ソ連の降伏後も地下に潜伏していた彼女は、20年間この日を待ち続けていた。彼女の演説が闇のネットワークに流れた。「我々は自由のために戦う。ソ連の鎖を断ち切り、アメリカを再び我々の手に取り戻す!」その声は、冷めた私の心さえ揺さぶった。


 ソ連は即座に対応した。西側自治連邦に駐留する赤軍が動き、シカゴを包囲した。しかし、レジスタンスは予想外の反撃を見せた。彼らは旧アメリカ軍の秘密基地から奪ったEMP兵器を使用し、ソ連の電子機器を無力化したのだ。戦車が停止し、ドローンが墜落する中、星条旗の旗手たちは街を奪還していった。


 4月10日、事態は急変した。レジスタンスがニューヨークに進攻し、レーニン像を爆破した映像が世界に配信された。モスクワの中央タワーでは、パニックが広がった。上司は叫んだ。「西側を潰せ!核を使え!」だが、私は動けなかった。画面に映るエリザベスの姿——彼女が星条旗を掲げる瞬間——に、私は何かを取り戻した気がした。


 4月15日、決戦の日が来た。レジスタンスはワシントンD.C.に到達し、ソ連の傀儡政府を打倒した。赤軍は混乱し、撤退を余儀なくされた。エリザベスは議事堂の廃墟に立ち、宣言した。「アメリカ合衆国はここに復活する。自由は死なない!」群衆の歓声が響き、星条旗が再び風に翻った。


 モスクワでは、指導部が崩壊し始めていた。西側の解放は、他の衛星国家にも波及し、ソ連の支配は揺らいでいた。私は監視室を去り、母が隠していた古いジャズのレコードを手に取った。自由の音が部屋に響き、私は初めて笑った。


 ソ連は勝ったはずだった。だが、星条旗の下で、アメリカは再び息を吹き返したのだ。

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