第6話 午前零時の人形劇「真夜中に動き出す人形が語る、ひとつの恋の記憶——。」

 深夜零時、古びた劇場の扉が静かに開く。


 街の片隅にひっそりと佇むその小さな劇場は、昼間は誰の目にも触れない。ただ、夜になるとふっと現れ、観客を招き入れるという。


 「ようこそ、午前零時の人形劇へ」


 劇場に足を踏み入れた青年・悠真(ゆうま)は、不思議な老紳士に迎えられた。彼の目の前には、小さな舞台と並べられた木製の椅子。壁には無数の人形たちが眠るように吊るされている。


 「本日の演目は——ある恋の物語です」


 老紳士の一言とともに、蝋燭の灯りがともる。ふわりと赤い緞帳(どんちょう)が開き、人形たちがゆっくりと動き始めた。


 それは、ひとりの青年と、ひとりの少女の物語。


 青年は時計職人。どんな壊れた時計も直す腕を持つが、決して時間を進めることはできなかった。


 少女は踊り子。誰よりも美しく踊るが、決して自分の足で舞台を降りることはできなかった。


 青年は少女に恋をした。


 「君を自由にすることができたら——」


 だが、少女は言った。


 「私が自由になったとき、きっとあなたはここにはいない」


 青年はそれでも願った。


 時計を組み直し、何度も何度も試みた。そして、ついに彼は時間の針を進める方法を見つけた。


 少女は微笑み、自らの足で舞台を降りた。


 その瞬間——青年の姿は消えた。


 「お別れですね」


 少女の目から、一筋の涙が零れ落ちる。


 そのとき、悠真は気づいた。


 ——これは、ただの人形劇ではない。


 舞台の上で繰り広げられているのは、かつてこの劇場で生きた人々の記憶だった。


 彼はふと、壁に並ぶ人形たちを見上げた。その中に——どこか見覚えのある顔があった。


 「……これは、僕?」


 老紳士は静かに頷いた。


 「この劇場に招かれた者は、皆、己の記憶と向き合うのです」


 悠真の胸に、ある感覚がよぎった。忘れていたはずの、誰かへの想い。


 ふと、劇場の時計が零時を過ぎる。


 次の瞬間——


 悠真は、見慣れた自室のベッドの上にいた。


 夢だったのか?


 しかし、枕元には小さな木製の人形が転がっていた。


 それは、舞台の少女と同じ顔をしていた。

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