月夜奇譚(つきよきたん) 〜幻想の夜に出会う12の物語〜

Algo Lighter アルゴライター

第1話 月夜の手紙屋「未来を変えるのは、手紙ではなく、君の選択だ。」


 月明かりの下、蒼真は静かに歩いていた。夏の終わりの夜風が、まだ熱を持つアスファルトの匂いを運んでくる。人気のない商店街の奥、ひっそりと佇む小さな店が目に入った。看板には、淡い銀色の文字でこう書かれている。


 「月夜の手紙屋」


 蒼真は無意識に扉を押した。店内は静かで、古びた木の香りが満ちている。カウンターの奥に、白髪の店主が静かに佇んでいた。


 「手紙を取りに来たのかい?」


 不思議な問いかけに戸惑う間もなく、店主は棚から一通の封筒を取り出し、蒼真の前に置いた。そこには、確かに彼の名前が記されていた。


 「差出人は——未来の君自身だよ」


 心臓が跳ねる。震える指で封を切ると、中には簡潔な文章が並んでいた。


 『君は三日後、大きな選択を迫られる。その選択次第で未来は変わる。決断に迷ったら、再びこの店を訪れよ』


 意味が分からない。けれど、その夜から、蒼真の周囲で小さな変化が起こり始めた。


 翌日、幼馴染の結菜が「大事な話がある」と言い、放課後に屋上へ呼び出された。学校では「誰かが転校するらしい」という噂が流れていた。そして三日目の夜、結菜が言った。


 「……蒼真、私、転校するの」


 まるで、未来の手紙が予言していたかのように。だが、結菜は続けた。


 「本当はずっと、好きだった」


 言葉が出なかった。長い間、何かが胸の奥で絡まっていたような気がした。目の前の彼女は、月明かりの下で涙を浮かべている。答えを求める視線が、心に突き刺さる。


 その夜、蒼真は再び「月夜の手紙屋」を訪れた。


 店主は何も言わず、静かにもう一通の手紙を差し出した。


 『君は答えを知っている。未来は、君の選択で変わる』


 ——どうすればいい?


 もし結菜を引き止めれば、二人の時間は続く。でも彼女の夢を奪ってしまうかもしれない。送り出せば、彼女は遠くへ行く。だが、きっといつか——。


 蒼真は息を吸い、決めた。


 翌日、彼は結菜に言った。


 「行ってこいよ。……頑張れ」


 結菜は涙をこぼしながら微笑み、最後に一言だけ呟いた。


 「ありがとう」


 彼女は月の下、振り返らずに歩き去った。


 それから数年後——。


 雑誌のページをめくると、知っている名前が目に入った。結菜は夢を叶え、輝いていた。蒼真は微笑み、ふと夜空を見上げる。


 あの夜の「月夜の手紙屋」は、まるで幻のように浮かんでいた。


 ——選んだ未来は、間違っていなかった。

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