第3話「影に囚われた者」



響と綾乃は、タクシーで寺に向かっていた。車内は沈黙に包まれていた。


綾乃は窓の外を虚ろな目で眺め、時折、自分の影を不安げに確認していた。その影は今のところ、正常に彼女の動きに合わせていた。


「イノセンス研究所について、何か知ってますか?」綾乃が静かに尋ねた。


響は言葉を選びながら答えた。「あそこは...表向きは脳死後の意識を研究する施設ですが、実際には異なる評判があります」


「どんな評判ですか?」


「霊を呼び出す実験をしている、という噂が...」響は言いづらそうに続けた。「何人もの霊媒師が関わって姿を消したこともあるそうです」


綾乃は顔色を失った。


タクシーが信号で止まった時、響は運転手の後ろの首筋に奇妙な黒いあざのようなものを見た。それは蜘蛛の形に似ていた。


響は意識的に視線をそらし、車窓に目をやった。窓に映る自分の顔が、一瞬歪んで見えた。まるで誰かが自分の皮膚の下から覗いているように。


そして、車外の街灯の下、自分と綾乃の影だけが不自然に伸び、揺れていることに気づいた。影は二人の動きに合わせず、別の意志を持つかのように動いていた。


響は綾乃の手を強く握った。綾乃も影の異変に気づいたようで、小さく息を呑んだ。


「運転手さん、急いでください」響は平静を装いながら言った。


運転手は後部座席のバックミラーで二人を見た。その目は妙に虚ろだった。


「もうすぐ着きます」運転手の声は奇妙に平坦だった。「もうすぐ...」


響は不安を感じ、窓の外に目をやった。


見知らぬ道を走っていた。


「すみません、これは寺に行く道ではありません」響は指摘した。


運転手は答えなかった。ただ前方を見つめたまま、車を加速させた。


「止まってください」響は強く言った。「ここで降ります」


運転手は振り向いた。その顔は奇妙にねじれていた。口が不自然に大きく、瞳孔が広がっていた。


「お客さん...もうすぐ着きますよ...」


その声は男のものではなかった。女性の声だった。詩織の声に聞こえた。


響は即座に決断した。「綾乃さん、逃げて!」


彼女はドアを開け、まだ走行中の車から飛び出た。綾乃も続いた。二人は転がりながらも、なんとか大きな怪我なく路上に転がった。


タクシーは急ブレーキをかけ、彼らから数十メートル先で停止した。


響は急いで立ち上がり、綾乃を引き起こした。「走って!」


二人は暗がりの路地へと駆け込んだ。後ろでタクシーのドアが開く音がした。


* * *


なんとか寺の境内に辿り着いた時、二人は息も絶え絶えだった。


境内に足を踏み入れた瞬間、響は何かが変わるのを感じた。寺の結界が彼らを守ったのか、あるいは「それ」が追跡を諦めたのか。


本堂に向かうと、住職が二人を出迎えた。年老いた住職は響の仕事を理解し、協力的だった。


「何があった?」住職は二人の様子を見て、すぐに察したように尋ねた。


響が状況を簡潔に説明すると、住職は眉をひそめた。


「影喰らい...」住職は呟いた。「死者の魂だけでは飽き足らず、生きた人間の魂を喰らおうとする厄介なものだ」


住職は二人を本堂に案内した。そこは厚い壁に囲まれ、天井には古い護符が貼られていた。


「ここなら守られる」住職は言った。「ただし、一時的にだ」


「住職、イノセンス研究所について何かご存知ですか?」響は尋ねた。


住職は深いシワの刻まれた顔を曇らせた。


「禁断の地だ。かつて正統な神経科学研究所だったが、十年ほど前から別の実験を始めた。死者と対話する方法を見つけようとしていたらしい」


彼は棚から古い本を取り出した。それを開くと、先ほど響が詩織のノートで見たのと同じような複雑な図形が描かれていた。


「これは『冥界の門』と呼ばれる儀式だ」住職は説明した。「死者の国と生者の国の境界を開く禁忌の術。操霊師でさえ、決して手を出してはならないものだ」


響は本を覗き込んだ。そこには儀式の手順と、警告が書かれていた。


『この儀式を行う者は、必ず代償を支払わねばならない。死者の国から何かを得れば、生者の国から何かを失う』


「代償...」響は呟いた。「詩織さんは自分の魂を奪われたんです」


住職はうなずいた。「そして今、"彼ら"は別の餌食を探している。操霊師である君だ」


「どうすれば詩織さんを助けられますか?」


「簡単ではない」住職は言った。「門を閉じなければならない。そのためには、イノセンス研究所に行き、儀式が行われた場所を浄化する必要がある」


住職は古い棚から小さな木箱を取り出した。それを開くと、銀の短剣と、小さな瓶に入った何かの液体、そして古い護符が入っていた。


「これは代々この寺に伝わる『浄霊の道具』だ」住職は言った。「使い方を教えよう」


住職は続けた。「だが、最も重要なのは、自分自身を失わないことだ。"彼ら"は既に君の中に侵入している。気をつけなさい...自分自身の影でさえも信じてはならない」


* * *


響と綾乃は寺の一室で休むことになった。窓からは庭の古い石灯籠が見え、朧げな月明かりが部屋を照らしていた。


「姉は...助かりますか?」綾乃は暗がりの中で尋ねた。


響は正直に答えた。「わからない。でも、できる限りのことはします」


二人は静かに横になった。しかし、響は眠れなかった。彼女の意識の片隅で、何かが蠢いているような感覚があった。まるで自分の思考の中に、別の誰かの思考が紛れ込んでいるような感覚。


そして、それは次第に強くなっていった。


「響さん...」


耳元で囁く声に、響は飛び起きた。しかし、部屋には彼女と眠っている綾乃しかいなかった。


「響さん...助けて...」


声は響の頭の中から聞こえてきた。詩織の声だった。


「詩織さん...?」響は小声で答えた。


「私を...助けて...彼らは...私を使って...」


「彼らって誰?何を使って?」


「門...彼らは門を...完全に開こうとしている...操霊師の力が...必要なの...」


響は震えた。操霊師の力——死者と交信する能力が、"彼ら"の目的なのか。


「どうすれば助けられる?」


「研究所へ...儀式の場所へ...でも、気をつけて...彼らは...あなたの中にも...」


声は次第に弱まり、やがて消えた。


そのとき、窓の外を見て、響は凍りついた。


庭の石灯籠の下に、人影が立っていた。月明かりにそれは、詩織のような姿に見えた。しかし、その体は奇妙に伸び、頭が不自然に傾いていた。


影は響を見上げ、ゆっくりと微笑んだ。その笑顔は耳まで裂けていた。


響が見つめる中、影はゆっくりと両手を広げた。そして、その手が不自然に長く伸び、窓ガラスに触れた。


窓ガラスが凍り付くように白く曇り、そこに文字が浮かび上がった。


『来なさい』


響は思わず後ずさった。


影は再び窓に触れ、新たな言葉を書いた。


『あなたがいないと、門は閉じられない』


響は混乱した。それは詩織なのか、それとも"彼ら"なのか。誘い込もうとしているのか、それとも本当に助けを求めているのか。


響が迷っていると、影は再び窓に触れた。


『時間がない』


そして、影は突然、消えた。


響は決意した。明日、イノセンス研究所へ行こう。詩織を救うために。そして、すべてを終わらせるために。


* * *


翌朝、響が目を覚ますと、体が異様に重く感じられた。鏡で自分の顔を見ると、目の下に暗い隈ができていた。皮膚は蒼白で、唇は乾いていた。


何かが彼女の生命力を吸い取っているようだった。


響は浄霊の道具を確認した。銀の短剣、浄化の水、護符。


「行かないで」


振り返ると、綾乃が立っていた。彼女の顔は恐怖で引きつっていた。


「でも、詩織さんを助けなきゃ」響は言った。


「危険すぎる」綾乃は懇願した。「姉は...もういないかもしれない」


響は綾乃の手を取った。「あなたはここにいて。住職が守ってくれる」


「一人で行くの?」


「一人のほうが動きやすい」


それは嘘だった。本当は、綾乃を危険な目に遭わせたくなかっただけだ。


響は出発の準備を整えた。寺を出る前、彼女は自分の影を見た。それは今のところ、正常に彼女に追随していた。


しかし、太陽の角度が変わると、影はわずかに遅れて動いたように見えた。


* * *


響は名古屋行きの新幹線に乗った。


トイレに立った時、響は洗面台の鏡で自分の顔を見つめた。確かに自分だが、どこか違和感があった。まるで自分の顔の下に、別の顔が隠れているような感覚。


彼女が顔を洗っていると、背後から物音がした。


振り返ると、誰もいなかった。しかし、鏡に映る彼女の後ろには、黒い人影が立っていた。


響は動揺して振り返ったが、やはり誰もいなかった。再び鏡を見ると、影も消えていた。


幻覚だろうか。それとも...


* * *


名古屋駅に到着すると、響はレンタカーを借りた。


イノセンス研究所の住所は、綾乃から聞いていた。郊外の人里離れた場所にあるという。


レンタカーを走らせながら、響は不安を感じていた。自分の中の"何か"が、目的地に近づくにつれて活発になっているようだった。頭痛がし始め、視界がちらつく。


「大丈夫...私はまだ私...」


響は自分に言い聞かせた。住職の忠告を思い出す。決して心を開いてはならない。


郊外の森の中、響は研究所の看板を見つけた。しかし、建物は廃墟のようだった。窓ガラスは割れ、壁は苔で覆われていた。


響は車を停め、慎重に建物に近づいた。


入り口のドアは壊れており、中に入るのは簡単だった。内部は薄暗く、埃が積もっていた。研究所は明らかに何年も使われていない。


響は懐中電灯を取り出し、廊下を進んだ。廊下の奥、金属製の重いドアがあった。それには「立入禁止」の札が掛けられていた。


響はゆっくりとドアを開け、階段を下りた。そこは地下だった。


階段を下りきると、そこには広い地下室があった。床には確かに、彼女がビジョンで見た複雑な図形が描かれていた。しかし、それは今や色あせ、一部は消されていた。


中央には石のような台があった。祭壇だ。


突然、部屋の温度が急激に下がった。呼吸が白い霧となって漂う。


「誰かいるの...?」響は声をかけた。


返事はなかったが、彼女は誰かの気配を感じた。振り返ると、入り口に人影が立っていた。


それは詩織だった。いや、詩織の姿をした"何か"だった。


「あなたが来るのを待っていた」それは言った。


「あなたは...詩織さん?」


人影はゆっくりと歩み寄った。その動きは奇妙に不自然で、まるで人形のようだった。


「私は...詩織...でもあり...詩織でもない...」


「どういうこと?」


人影は祭壇の前で立ち止まった。


「私は詩織の姿を借りている...でも、私は別のもの...」


「"彼ら"なの?」


人影はうなずいた。「私たちは...狭間の世界の住人...死でもなく、生でもなく...」


「あなたたちは詩織さんに何をした?」


「彼女は門を開いた...そして、私たちは彼女を通って来た...」


「彼女の魂は?」


「まだある...でも、長くはない...」


響は決意を固めた。「彼女を返して」


人影は首を傾げた。「それはできない...でも、彼女に会うことはできる...」


「どうやって?」


「儀式を...完成させれば...」


響は警戒した。「それは罠?」


「違う...本当だ...」人影は近づいてきた。「響...あなたは操霊師...あなたなら...詩織を救える...」


響は迷った。信じるべきか、警戒すべきか。


人影は響の前に立ち、手を差し出した。


「私に...手を...」


響は本能的に手を引っ込めた。「私を利用しようとしてるだけでしょ?」


人影の表情が変わった。笑顔が消え、目が冷たくなった。


「賢いね...」その声は変わった。もはや詩織の声ではなく、複数の声が重なったような不気味な声になった。「でも、もう遅い...」


人影が突然、響に飛びかかった。響は咄嗟に護符を取り出し、相手に押し付けた。


人影は悲鳴を上げ、後退した。その姿がゆがみ、詩織の姿から別の何かへと変化していった。


黒い霧のような姿。それは人の形をしていたが、顔は空洞で、手足は異様に長かった。


『愚か者...』それは囁いた。『あなたは既に私たちのもの...』


響は銀の短剣を取り出した。儀式を始めなければ。


彼女は祭壇に近づき、短剣で自分の指を切った。血が溝に滴り落ちた。


霧の生き物が怒りの叫びを上げた。


『止めろ!』


響は浄化の水を撒き始めた。図形の外周に沿って、時計回りに水を撒く。


黒い霧が響に向かって伸びてきた。彼女は護符を投げつけた。護符が霧に触れると、霧は一瞬退いた。


響は急いで儀式を続けた。最後に、中央の印に血を垂らし、住職から教わった呪文を唱える。


「冥界の門よ、閉じよ。死者は死者の国へ、生者は生者の国へ」


突然、図形が光り始めた。暗い青い光が床から立ち上った。


黒い霧の生き物が苦しげな叫びを上げた。


『止まれ!お前は分かっていない!』


響はさらに言葉を続けた。


「詩織の魂を解放せよ。彼女をこの世に戻せ」


図形の光が強まり、部屋全体が振動し始めた。


黒い霧が混乱したように渦を巻き、天井に向かって伸びていった。そして、突然、響の中から何かが引き抜かれるような感覚があった。


彼女は激しい痛みに叫び声を上げた。自分の影が床から剥がれ、黒い霧に向かって吸い込まれていくのが見えた。


「何が...?」


瞬間、暗闇の中から声が聞こえた。


「響さん!止めて!」


その声は間違いなく詩織のものだった。しかし、今度は偽物ではなく、本物の声に聞こえた。


「詩織さん...?」


「その儀式は違う!それは門を閉じるんじゃない...完全に開くための儀式よ!」


響は混乱した。「でも、住職が...」


「騙されたのよ!住職は既に彼らに取り込まれている!」


響は儀式を中断しようとしたが、既に遅かった。図形の光が最高潮に達し、祭壇から黒い煙が立ち上った。


煙の中から、人影が現れた。それは詩織だった。本物の詩織に見えた。


「響さん...」詩織は泣きながら言った。「ごめんなさい...私のせいで...」


「詩織さん!」響は彼女に手を伸ばした。


しかし、彼女の手が詩織に触れる直前、詩織の姿がゆがみ始めた。彼女の顔が溶け、その下から別の顔が現れた。


それは響自身の顔だった。しかし、目は真っ黒で、口は耳まで裂けていた。


『ありがとう、響...』それは響の声で話した。『あなたのおかげで、門は完全に開いた...』


響は恐怖で後退した。「何...?」


『私たちは今、この世界に完全に来ることができる...』


黒い煙が部屋中に広がり、壁や天井を覆い始めた。煙の中から、無数の顔が浮かび上がっては消えた。


響は急いで出口に向かったが、ドアは消えていた。壁一面が黒い煙に覆われていた。


彼女は罠にはまったのだ。


『響...』黒い煙の中から、再び詩織の声が聞こえた。


振り返ると、そこには本物の詩織が立っていた。彼女は痩せこけ、目は涙で赤く腫れていた。


「響さん...助けて...」


響は迷った。それは本物なのか、それとも罠なのか。


詩織は響に向かって一歩踏み出した。


「信じて...私よ...」


響の頭の中で、住職の忠告が響いた。


「彼らは愛する者の姿を借りて近づいてくる...」


響は自分の直感を信じることにした。


「あなたが本物の詩織さんなら、証明して」


詩織は悲しげに微笑んだ。


「あの日...あなたの寺を訪ねた時...私は言った...『響さん、お願い...私を見つけて』...それが私の最初の言葉...」


それは確かに詩織の手紙に書かれていた言葉だった。しかし、それは綾乃も知っていることだ。


「それだけじゃ足りない」響は言った。


詩織の目に涙が溢れた。


「私には...死んだ双子の妹がいた...生まれてすぐに亡くなった...両親は私にだけ、その事実を話した...綾乃には言わなかった...」


「私は妹に会いたかった...話したかった...だからこの研究を始めたの...」


詩織の声は震えていた。「でも、私が呼び出したのは妹じゃなかった...何か別のものが...私に応えた...」


響はようやく全体像が見えてきた気がした。「そして儀式が失敗して...」


「私は取り込まれた...でも完全ではなく...彼らは操霊師の力が必要だった...門を完全に開くために...」


「だから私を呼んだ...」


詩織はうなずいた。「彼らは私の体を使って...あなたを誘き寄せようとした...でも、一部の私はまだ抵抗していた...手紙を書いたのは私...だけど彼らにも操られていた...」


黒い霧が二人の周りで渦巻き、次第に近づいてきた。壁から伸びる黒い手が彼らに向かって這ってきた。天井からは黒い液体が雨のように落ち始めた。


「どうすれば助けられる?」響は急いで尋ねた。


詩織は恐怖に目を見開いたまま、祭壇を指差した。「儀式の中央...図形の真ん中に...私たち二人の血を...」


「でも、それは門を開く儀式じゃ...」


「違う!今のままじゃ...彼らが支配している...でも、私たち二人で...意図を変えれば...」


詩織の声が途切れた。彼女の体が突然不自然に痙攣し始めた。


「詩織さん!?」


詩織の目が血走り、口から黒い液体が溢れ出した。彼女の体が床に倒れ、激しく痙攣した。


「彼らが...私を引き戻そうとしている...」詩織は苦しそうに言った。「急いで...!」


響は決断した。彼女は詩織の手を取り、二人で祭壇に向かった。


そして、短剣で自分の指を切り、詩織の指も切った。二人の血が混ざり合い、祭壇の中央に落ちた。


「冥界の門よ、我らの意志に従え!」響は叫んだ。「彼らを元の世界へ、我らを此の世へ!」


詩織も声を合わせた。「私の魂を返せ!響の魂を返せ!」


部屋全体が揺れ始めた。図形の光がさらに強くなり、黒い霧が渦を巻いた。


霧の中から、無数の悲鳴が聞こえた。『止めろ!やめろ!』


しかし、響と詩織は手を離さなかった。


突然、激しい閃光が部屋を包み、二人は気を失った。


* * *


響が目を覚ますと、彼女は廃墟の階段の上にいた。そこには詩織も倒れていた。


「詩織さん!」響は彼女を揺り起こした。


詩織はゆっくりと目を開いた。「響さん...成功したの?」


響は周囲を見回した。もはや黒い霧はなく、部屋も通常の温度に戻っていた。


「多分...」響は答えた。


二人はよろよろと建物の外に出た。外は夕暮れで、空が赤く染まっていた。


「綾乃を心配させているわ」詩織は言った。


響はうなずいた。「帰りましょう」


二人がレンタカーに乗り込む前、詩織は響の顔をじっと見た。


「本当に...あなたなの?」


響は微笑んだ。「私は私よ」


詩織は安堵のため息をついた。「良かった...」


しかし、車のバックミラーに映った自分の顔を見て、響は凍りついた。


その瞬間、彼女の目が真っ黒に変わり、すぐに元に戻った。


それは錯覚だったのか。それとも...


「響さん?」詩織が心配そうに尋ねた。


「なんでもない」響は答えた。「帰りましょう」


彼女は車のエンジンをかけた。


バックミラーの中で、彼女の影がゆっくりと微笑んだ。

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