第2話 竜之介も一緒の部屋



 それから数日後、奇跡としか思えない宿を竜之介が見つけてきた。

 岐阜の山奥にある農家の民泊に、まだ空き室があるというのを人づてに聞いたという。電話で確認をすると、まだ空いていたのだ。


 自由の利かない祥太の日程に合わせると言うので、バーのオーナーである津崎つざき直矢なおやに休みをもらえるか聞いてみると、二泊三日休みをもらえた。

 すぐに竜之介に伝え、三人が一緒に泊まれる部屋を取った。

 これで宏人は、祥太とイチャイチャは絶対禁止が確定したも同然だった。

 宏人は、竜之介も一緒の部屋と聞いて不満そうな顔をしていたが、祥太は、三人で旅行ができることが何よりうれしかった。



 その日の夜、宏人とベッドで横になっていた祥太は、岐阜の旅行の話を嬉しそうに話し出した。


「旅行楽しみだな」

「うん……」


 宏人は、祥太の頬を撫でながら、二人きりがよかったな、と呟いた。


「そんな事言っても、せっかく竜之介が車で連れて行ってくれるんだから、ありがたいよ」

「竜ちゃんは僕と同じで、ずっと祥太のことが好きだから」

「でも、竜之介の好きと宏人の好きは多分、種類が違うと思うけど」

「うーん……」


 明日はお互い学校と仕事がある。

 早い時間からベッドに横になってだらだら過ごしていたら、宏人が腕を伸ばして祥太の腰を引き寄せた。

 祥太はドキリとして息を吸う。なかなかこのスキンシップには慣れない。お互いの鼻をくっつけあうと、宏人の息が唇にかかった。

 宏人が近くにいるだけで、心臓がバクバクした。宏人の方も同じだと思う。


「早いけど……、電気消すね」


 宏人が掠れた声で言って、部屋のスイッチを消した。旅行楽しみだな、と言った祥太の声がかき消された。




 ゴールデンウイークに入り、竜之介が、祥太たちのアパートまで迎えに来てくれた。荷物を積んですぐに車に乗り込み、岐阜の方へ出発する。

 宏人は後部座席で、祥太は助手席だ。トイレ休憩や食事のサービスエリアで交代で座ろうと、次のサービスエリアを抜けたら、祥太が後ろに座る。


 竜之介が旅行の予定をどうするか、と話し始めた。

 三人でいろんなことを言いあいながら、車は高速道路を進んでいく。


 竜之介の車は、新車の軽自動車で、深いグリーン色のSUV車だった。カーラジオの音量を低くして、18歳からずっと運転しているので、初心者マークも外れている。

 カーナビのおかげでスムーズに目的地まで到着した。


 ずいぶん山奥だが、そこへ行くまでに深い谷や川の横を走り、山の中にぽつぽつと人家があった。岐阜には天然の温泉が湧いていて、水が豊富らしい。

 お土産も買いたいし、自然の中を歩いてもみたい。

 祥太は車から降りて、大きく伸びをした。


「竜之介、疲れたろう。運転ありがとう」


 祥太がお礼を言うと、竜之介も車から降りて体を伸ばした。


「ええよ。俺、運転すんの好きやから。宏人、大丈夫か?」

「うん……」


 宏人も車から降りると、すぐに祥太のそばへ寄って来て抱きしめた。


「祥太がそばにいるのに、足りない」

「おいっ。イチャイチャ厳禁って言ったよな、俺」

「これのどこがイチャイチャなの? 普通でしょ。いつも学校でやってたじゃん」


 確かにその通りなので、竜之介はうっと言葉に詰まった。


「まあ、それくらいなら許してやる」


 祥太は、ホッとしながら宏人の背中を撫でてやった。


「宿に入ろうか」


 祥太は、荷物を下ろす二人を後にして、先に目の前にある立派な古民家へ向かった。

 農家がしている民泊らしく、宿というより本当に農家だ。

 玄関脇に付いてあるドアホンを鳴らすと、はあーいと少女の声がした。


「こんにちは」


 祥太がそっとスライド式の引き戸を開くと、広い土間があって、上がり框には少女が正座でお辞儀をしていた。


「いらっしゃいませ」

「あ、予約していた森です」


 竜之介の名前で三人予約している。


「はい、承っております!」


 元気よく顔を上げた女の子は、髪はセミロングでぱっちりした目が印象的な可愛い子だった。

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