第2話 人類滅亡

「う、んん……」


 朝目が覚めて不自然な態勢になっていることを自覚したことで、また寝落ちしていたことがわかる。身体をポキポキと鳴らしながら起き上がる。上を見ると灰色の天井を自作の魔力ライトと、電気製のLEDライトが照らしてい、ない?


「あれおかしいな?」


 もしかして断線でもしたのか? それともブレーカーが落ちたのか、電気が流れている様子がない。


「はあ、仕方ない。とりあえず顔も洗ってスッキリしたいし、上に戻るか」


 そう呟いて、上に行くための扉を開けるが、びくともしない。何度も開けようとするがそれでもどうにもならない。


「まさか、閉じ込められた?」


 冷や汗を流しながら急いで携帯を探し出すと、一先ず知り合いに電話を掛けるが繋がらない。よく見れば圏外になっている。


「どうなっているんだよ……」


 いや、たしか外の様子を見るための魔力で動くカメラを試作して取り付けていたはず。それなら外の様子がわかるだろう。そう思って急いでモニターを用意して繋げる。

 そこには驚くべき光景が広がっていた。


「なんだよ、これ……」


 壊れた家が広がり、モンスターがわが物顔で闊歩している。モンスターが引きずっているものをよく見ると、人の腕らしきものが……!


「う、えええぇぇぇ!!!」


 なんとか近くの袋に開くと、そこに吐き出す。そのまましばらく袋に吐き出すが頭の中にさっきの映像が流れ続ける。なんとか落ち着くと、先ほどまで見ていた画面を見る。そこにいたモンスターはいなくなっていた。


「なんだよ……いったい何があったんだよ!」


 そのまま意味もなく喚いたり、圏外で繋がらないスマホを弄りまわした。結局落ち着いてきたのはお昼ごろになり、お腹が空いていることを自覚したときだった。


「とりあえず、とりあえず落ち着くためにも今わかっていることをまとめてみるか」


・朝起きたら電気が使えなくなっていた。

・外は家が壊されているので、自分の家も壊れている可能性がある。だから外に繋がる扉が開けられない。

・なぜかモンスターが外にいる。


「これらからすると、何かしらの理由、例えばダンジョンからモンスターがあふれ出したとか。そして設備とかが壊された」


 普通はダンジョンからモンスターは出ない。その事実があるから俺のような一般人は普通に生活できる。だからあり得ない、あり得ないはずなのに先ほどの光景が頭をよぎる。だがもしいきなりそのあり得ないことが起きたら? そう考えたとき、最悪の想像が湧きたった。


「……いや、ありえない。まさかそんなわけないよな」


 必死に自分に言い聞かせるように言う。恐怖を押し殺すように。


「人類が滅んだとか、そんなわけ……」


 だが無情にもカメラはそのモンスターを写した。空想の王、生物の頂点ともされるモンスター、ドラゴン。しかもそれが複数体飛んでいる光景を。


「人類は、滅んだのか」


 その威容を見たことでストンと人類が滅んだことを受け入れられた。あれほどの存在がいたら太刀打ちできるはずがないと、そう本能で理解できたのだ。


「どうすっかなぁ」


 無気力につぶやく。仮に、俺の他にも生存者がいたとして、ここから復興できるのか? 無理だ。それはわかる。ただでさえ頭数が少ないのに、地上にいるモンスターを隅々まで倒すとか無理だ。

 それなら拠点を作るのは? あのドラゴンたちがいる限り無理だろう。見つかったら一瞬で蹴散らされるのが目に見えている。


「そういえばなんで俺は無事なんだ?」


 もしかして奴らの感知能力は低いのかもしれない。むしろ低くあってほしい。


「そうならこのまま地下を拠点にして広げていくのがいいか」


 挫けていた心をなんとかして、必要な物資を確認する。

 まずは水だ。飲み水やこれは空気発生器と同じように作ればいいだろう。いろいろと資材はあるから、すぐに作れるはずだ。

 他にはポーション……は必要ない。鍛冶は武器を必要な人がいない。服も今はいらない。他には……今までやってきたことを思い返すが何も思いつかない。


「というかもしかして、錬金術に集中できる?」


 いやいや待て待て、たしかに仕事からは解放されたがその分素材とかは手に入らないだろ! だから人類滅んだ最高なんて思っちゃいけない。

 でも今ならどんなもの作ってもお咎めなしだろ。煩わしい法律から解放だ!


 そんなことを能天気に、もしくは空元気に考えているうちに気づけば水の魔道具、水生成くんが完成した。


「これで飲み水とかは大丈夫だな」


 一先ずこれで水は確保、これならカップラーメンとかも食べれるからしばらくは大丈夫そうだ。


「さて次は何を作るか」


 たくさんの素材があるから、作ろうと思えばいろんなものが作れそうだよな。でも拠点を広げようとすればすぐに底をついてしまうような量だ。


「そうなってくると新しく素材を獲得しなくちゃならない」


 それには外に出なくちゃいけない。だが俺のような生産ジョブがモンスターに敵うわけがない、自殺行為だ。


「となると代わりに取ってきてくれる存在が必要だ」


 あれを作るか。錬金術師と言えばの代名詞、禁断の生命創造、人類の禁忌、はたまた神の領域ともいわれる!


人造生命ホムンクルス! は無理だから、ここはゴーレムかなぁ」


 さすがにホムンクルスの作り方は知らない。だから代わりに作り方を知っているゴーレムを作る。

 ダンジョンには宝箱があるのだが、中には武器防具やレシピがある。そしてこのレシピを使うことで、レシピに応じた内容の物の作り方をマスターできる。俺のゴーレムはそういう経緯で知った。というか覚えさせられた。あのクソ上司が、でも今はナイスクソ上司!


「まさかゴーレムのレシピが錬金術師しか覚えられないとは、そのおかげで今があるけど」


 戦闘での壁役や荷物運び、そして生産の補助に使えないかと思われたが、戦闘では足が遅すぎる、生産では細かい調整ができない、といった理由で使えない烙印を押されていた。


「レシピを覚えたときに改良できそうだなとは思ったけど、すっかり忘れていたな」


 あの時は毎日が慌ただしかったから、余計なことを考えていられなかった。まあそのおかげでこの家が買えたけど。

 思わず遠い目をしてしまうが、しっかり気を入れ直す。まずは久しぶりなのもあって、レシピ通りにゴーレムを作るか。

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