崩壊した世界では錬金術師が万能です!
天星 水星
第1話 錬金術師とは
突如として「空想」とされていたダンジョンが現実に出現した。それと同時に、人類には特殊な能力──ジョブが発現し、ダンジョンから生まれる
当初はどんなジョブでも重宝されたが、社会が安定するにつれてジョブ間の格差が顕著になっていく。
中でも錬金術師は希少とされながらも、不遇なジョブと呼ばれている。その理由は単純で、万能ではあるが特化型ジョブに比べると劣るとされているためだ。
さてそんなダンジョンが世界中に出現したことで、人類は混乱の渦に巻き込まれた。
神の怒りだと騒ぐ宗教家、天変地異の前触れだと怯える占い師、物資を買い占める民衆。しかし時が経つにつれ人々は落ち着きを取り戻し、やがてダンジョンの存在が広く知れ渡ると、その価値に熱狂するようになった。
ダンジョンから得られる魔石、それに伴うエネルギーである魔力。これらを活用した発電技術は、従来の発電設備よりも圧倒的にクリーンで効率も良いと判明した。
さらにダンジョン内では鉱石や植物を採取でき、それらは一定時間が経てば自然と再生する。こうした資源の恩恵を受け、人類はさらなる進歩を遂げる──そんな未来を夢見る者も少なくなかった。
そんな中人々の歓喜に包まれる世界で、俺──
最初のうちは錬金術師という希少なジョブに期待されていた。漫画や小説では強キャラ扱いされることも多い。しかし現実では便利屋のような日常を送ることになった。
政府の発表によれば、ジョブの内訳は
・戦闘系:7割
・生産系:2割
・特殊系:1割
とされている。数字だけ見ると生産系はそこまで少なく感じないかもしれない。だが実際に日々生産に奔走する俺からすると、圧倒的に足りていない。
例えばダンジョン探索に必須のポーションを作れるのは、薬師と錬金術師のみ。仮に100人の探索者がいたとして、戦闘系ジョブが70人、生産系ジョブが20人。その中でポーションを作れる薬師はせいぜい1人程度。
しかもポーションには傷を癒やす回復ポーション、魔力を回復する魔力ポーション、状態異常を治すポーションなど多種多様なものがある。当然それらを70人分用意するのは大変だ。
ポーションに限らず、生産系のジョブ全般が人手不足の状態だった。
そんな状況で俺の錬金術師はというと──薬師の手伝いをしたり、鍛冶師の手伝いをしたり、さらには裁縫師の手伝いまで……。結果あらゆる生産系ジョブのサポート役となり、便利屋のような扱いを受けることになった。
そして、なぜ錬金術師が不遇とされるのか?
それは「どの生産系ジョブの下位互換」と見なされているからだ。
他の特化ジョブと比べると作業速度が遅く、性能も劣る。最初の頃なんて「これなら特化型のジョブのほうがマシ」だと陰口を叩かれていた。
……とはいえ、俺は実はかなりの高給取りだったりする。
18歳のときに探索者組合にスカウトされ、ブラック企業も驚くレベルの労働環境で働き、わずか1年半で一軒家を購入できるほど稼いだ。
もちろん都内では到底手が出ないが、いろいろな事情で安くなった物件だったため手が届いたのだ。
一軒家を買ったのは衝動買いではない。とあるルートでレシピを手に入れたためだだが、そのレシピには広大な敷地が必要だから一軒家を購入した。
話は変わるがかつて錬金術師には「金を生み出せるのでは?」という期待が寄せられていた。そして実際に俺は金を生み出すことができた──顕微鏡で見ないと分からないレベルの微量だったが。
金属を生み出す鉱物生成スキルは、膨大な魔力を消費する。そのため今の俺には到底大量生産は無理だった。成長すれば大量生産できるのでは? とも言われていたが現状を見る限り、その未来は遠そうだ。
ともあれ錬金術師には他のジョブにはできないこともできる。そしてこのレシピはそのための第一歩になる……はずだ。
ちなみに近隣は空き家ばかりだったため、気兼ねなく地下を拡張して6畳くらいの部屋を確保した。
地盤耐性? 酸素濃度? まあ、なんとかなるだろという気持ちで掘り進め、実際に何とかなった、というかした。
ただし快適とは程遠い環境なのとまだ広さが足りない、できれば学校の教室くらいの広さが欲しい。だから今は実験室兼資材置き場として使っている。
そんなある日、俺は魔力を用いた道具(魔道具)の製作を連日連夜していたらいつの間にか寝落ちしてしまった。
──だがまさかそのおかげで生き延びることになるとは、このときの俺は思いもしなかった。
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