reverb_20%
第14話
とある日の昼下がり。
仲のいいシンガーソングライター、障子メアリこと
そんな私には、ここ最近細やかな悩みがある。
家の近くのコンビニ、ドラッグストア、スーパーに買い出しに行くと、どういう訳か事あるごとに辺美さんと遭遇するようになったことだ。
もちろん向こうは気づいていない。私は深めのキャップに伊達メガネ、おまけにすっぴん。向こうは向こうで変装をしているから、周りのお客さんも彼だとは気づいていない。
けれど、滲み出る美人オーラと、それを近くで見たことがある私には分かる。ので、向こうにバレる前にいつもそそくさと退散し、発見されることをなんとか回避している。
「あ、すみません」
辺美さん頻出の謎と回避法の思案に思考を占拠され、キャットフードコーナーで商品を眺めながら立ち止まって放心していると、向かい側の棚を見ていたお客さんとカゴがぶつかってしまった。
余りにも聞き覚えのある声、というか、身に覚えのある声、という方がしっくりくる。まさに今、私の頭の中の主人公だった彼の声だ。そうに違いない。
昔から耳が良いから、人の声は一度話せば覚えられる。そんな私の五感会議が、耳を筆頭に
「あれ?」
知らぬふりをして早急にこの場を去りたいし、彼もどうか私に気づかず通り去ってほしいのだけれど、こういう時に限って気づかれるというのがこの世の
背中に飛ばされる視線が痛い。
「エトさん?」
「……」
「エトさんだよね?」
「…………違いまし!」
「ぶは」
動揺しすぎて語尾が恥ずかしい感じになってしまった私に、たまらず吹き出す辺美さん。完全にバレている。
降参し、はあ、と息を吐いて後ろを振り返ると、楽しそうににやりと悪戯な笑みを浮かべる彼と視線が出会った。
「私、ですが」
「ふふ、だよねえ」
ここまで来たら、いっそこの疑問を全て本人にぶつけてみようか。もし何かが起こったとしても、まさか白昼堂々とこの前のような、ナンパ?行為をとるとは思えないし。
「どうして、私だって分かったんですか?」
「俺、最近この辺に引っ越したんですよ。エトさんとパーティーで会った直後だから、半月前ぐらいかな」
世間の何と狭いことか。どうやら、いつの間にか辺美さんはご近所さんになっていたらしい。
だからよく買い出しに寄るんだよね、と、カゴにサランラップとアルミホイルを放り入れながらなんて事のないみたいに言っている。
「実は、引っ越して直ぐにここで買い物していた時にエトさんっぽい人、多分エトさんなんだけど、一度見かけたことあって」
私が気付いていない時にも居合わせていたのだそう。どうやら今回の遭遇は必然的だったようだ。
「この前の事、謝りたくて。また会いたいと思ってたから」
良かった、と少しバツが悪そうに俯きながら後頭部を撫でる仕草がなんだか幼く見えて、ほんの少しだけ、かわいいな、と思った。
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