2 遺品整理

  

   Ⅲ


 「君は一体、誰? なんでここに居るの・・・」

 由利はもう一度同じ質問を繰り返した。


 しかし少女は、背を向けたまま首だけ振り返って、ただ静かに笑うだけで、由利の問いには答えない。背中の白い羽は、今は小鳥のするように畳まれて下方に向って閉じている。


「もしかして、言葉がわからない?」

 見るからに日本人離れ、いや人間離れしていると言った方がいいかもしれないその姿に、果たして彼女が人語を解するのかと思うのも無理からぬところだった。


「と、とにかく何か着るものを・・・。そのままじゃ目のやりどころに困る」

 そう言って立ち上がった由利は、クロゼットの中にある衣装ケースから大きめのTシャツを取り出し、少女の前に戻って来て差し出した。

「ほら、とりあえずこれ着て」


 少女は怪訝な顔をして、座ったまま由利のことを見上げている。それを見て、確かにもし彼女が天使ならば、服を着ない方が逆にスタンダードなのかもしれない、とも思ったが、恥ずかしそうに背を向けているところをみると、一概にそうとも言い切れない。


 だが何より、このままでいられたのでは、由利の方が困ってしまう。裸の美しい幼女、それだけで目のやり場に困る。まともに顔も見られやしない。

 ―—俺、ロリコンじゃねえし


 仕方なく由利は、畳んであったTシャツを広げ、後ろからゆっくりと近づき、頭からそっと被せた。

 驚いた少女は振り向いて腕をバタバタさせた。その瞬間、少女の小さく膨らみかけた胸が由利の目に飛び込んできた。


「わぁ~~、ばか、暴れんな‼」

 慌ててTシャツの裾を引っ張り、首を通して下まで下げた。シャツの襟から顔だけ出し、両腕はシャツの中に入れたまま大人しくなった。


 左右の腕をシャツの上から掴んで袖口から引っ張り出してやり、その場に立たせると、思った通り由利でも大きいXXLサイズのTシャツは、少女の膝上まで長さがあった。

 背中の羽は少し生地を盛り上げてはいるものの、上手い具合にシャツの中に納まっている。とりあえずこれで落ち着いて話ができそうだ。


 少女にも由利の意図がわかったらしく、Tシャツを摘まんで嬉しそうに微笑んだ。

「ウチには女の子の服とかないし、とりあえずこれで我慢してくれるかな」

「ありがとう・・・」

 少女が初めて声を発した。


「あれ? 君、言葉がわかるの?」

「今、思い出した」

 ポツリと呟く。

「今?」




    Ⅳ


 「猟奇殺人、ってヤツ? それにしちゃ、遺体がなくて、骨が数本。

 床に残っていた血痕と、骨のDNAは一致。この部屋に住んでいた女のものだったらしい。」

 床に足を投げ出して座り、休憩に入った矢田部が話し出した。


「そんな・・・。残りの身体、骨とかいろいろ、どこ行っちゃったんすか?」

 同じく床に胡坐をかいて座っていた由利が尋ねた。

「さあね。だから警察も訳わからない。変な事件だって。自殺や変死して骨だけになったにしたって、残りの骨はどこへ行ったんだ。第一その女が亡くなって、骨だけになるにはどんだけ時間が掛かるんだって話さ。しかも数本しか残ってないって・・・」


「犯人が残りの骨を持ち出した、ってことっすか?」

「お前が犯人なら、殺人を隠すのに証拠になるモノをわざわざ少しだけ残して行くか?」

 そう言うと、矢田部は朝ここへ来る途中で買った缶コーヒーを開けて口に付けた。


「そりゃそうですよね。どういうことだ・・・。この部屋だってすごく汚れてるとか、ほこりが溜まっているってほどでもないし、自然と骨になる時間なんて経ってないっすよね」 

「警察の話じゃ、亡くなって、発見されるまで一週間も経ってなかっただろうってさ」

「ええっ? それじゃどうやって遺体を骨にしたんすか?」


「俺が知るか! 鍋でぐつぐつ煮て溶かしたんじゃねえの」

「うえ~。気持ちの悪いこと言わないでくださいよ~~」

 一瞬想像してしまい、思わず由利は口に含んでいたミルクティーを吐き出しそうになった。


「まっ、そんなこと有り得ないけどな。――このあいだ、亡くなった祖父じいさんの葬式に行ってきたんだけどさ、火葬場でおこつになるまで一時間以上掛かったよ。それを考えると、人一人をここで骨にするって、とんでもなく大変なことなんじゃねえの」

「ほんと、なんだかよくわからない話っすね・・・」

「そうだな・・・。まあ、いずれにせよ俺たちには関係のない話さ」




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