第29話
「小さい頃、君をかすみちゃんって呼んで仲良くしてたこと思い出したんだ。かすみちゃんはしゅうくん、しゅうくんって、俺に付いて回ってたんだよ」
「……柊、君?」
「そう。俺さ、両親が自動車事故にあってから、奈緒の家に引き取られるまでの記憶がすっぽり抜けてるんだ。両親と三人で暮らしていた頃の記憶も薄くなって、思い出すこともなくなっていた。それが、夏休みの間、かすみちゃんのお父さんに何度も会って相談してて、昔の話も聞いて、だんだん思い出してきたんだ」
「お父さんに会ってたんですか?」
そんなの、聞いてないよ。
私だって会長に会いたかった。
忙しそうだったから、連絡するのも我慢してたのに。
「うん、安西さんにはすごくお世話になった。奈緒の両親との交渉も、引っ越し先の物件探しも、保証人にもなってもらって、感謝してる」
「それじゃあ、奈緒ちゃんとの結婚の話は?」
「もちろん無くなったよ。もうこれからは、奈緒の我儘を聞く理由もないし、自分の好きな生き方をする」
晴れ晴れとした顔でそう宣言する会長に、私も自然と笑みが零れる。よかった。これからはもう辛そうな顔は見ないで済むんだ。
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