第3話 イレギュラーの正体は身内でした

 トンネルを抜けると地獄絵図だった。


「あぁ……」


 燃え盛る階層。

 蹴散けちらされる魔物。

 

「「「グギャアアアアアッ!」」」


 そして、火の海の中央に浮く一人の女。


「うふふ。うふふふふふっ」


 左右に巨大な真紅しんくの羽根を広げて、宙で妖艶ようえんに笑っている。

 発生した異常個体は見当たらない。

 魔物は全て等しく燃えているのだから。 


 すると、ぴくっと羽根が動き、女の顔がぐりんとこちらを向いた。


「あ」

「あぁ!」


 その瞬間、ものすごい勢いで俺の方に飛んでくる。


「カナタ君!!」

「ぐえっ」


 衝突したものの、さほど痛くはなかった。

 顔に当たった感触は妙に柔らかかったからだ。

 俺は彼女を引きがしつつ、顔を上げる。


「やっぱりルーゼリアだったのか」

「そうよ! お姉さん、カナタ君のことずっと探してたんだから!」

「こっちの世界までかよ……」


 彼女は『ルーゼリア』。

 俺の従魔の一人だ。


 あざやかな朱色しゅいろのショート。

 うっとりした目元。

 長身で豊満なボディ。

 

 自分で「お姉さん」と呼ぶぐらい、仲間では姉的存在だった。

 その分、甘やかしてくるけど。


「もう一生離さないっ!」

「苦しいって……」


 久しぶりだからか、ルーゼリアはむぎゅりと抱きしめてくる。

 恥ずかしいが、どこか懐かしい気分ではあった。


 でも、そんなルーゼリアの腕をつんつんと突くものがある。

 ココネの槍だ。


「ルーゼリア、主様にくっつきすぎ。嫌がってる」

「はぁ? 嫌がってないでしょ」


 二人はじっと睨み合う。


「というか、どうしてルーゼリアがいるの」

「あんたが教えてくれたんじゃない。王国の召喚士を百人程ぶっ○せば、カナタ君の世界に転移できるかもって」


 すると、聞き捨てならない話が出てきた。

 

「え。ココネ、君そんなことしたの?」

「……ココネ知らない」

「いやいや」


 ココネはぷいっと視線を逸らすも、ぼそっと口にした。


「世界を救った主様を手にかけた。だから死罪」

「自白しちゃってんじゃん……」


 そうやってこちらの世界に転移したのか。

 正確には、多くの召喚士を生贄いけにえに転移を発動させたんだろう。

 勇者召喚の回路は残ってただろうし。

 

 優しくておとなしいココネだけど、キレると一番怖いからな。

 まあ、分別ふんべつはあるから無関係な人は巻き込んでないと思う。

 それにしても……そうか。


(王国はココネ達に報復されたのか)


 俺を召喚した王国だけど、一度たりとて優遇はされなかった。

 表向きは勇者としてまつられ、裏では働かされっぱなし。


 人から頼られたのが初めてだったのもあり、良い様に使われていると気づいたのは終盤だった。

 いや、心のどこかで気づいていたけど、気づかないフリをしていた。

 今思えば、あれが「やりがい搾取」なんだろうな。


 ココネ達は時々怒りを示していたが、俺が止めていたんだ。

 その我慢も、俺の処刑によって限界が来たらしい。

 報復されたのなら、胸のつかえも少しは取れそうだ。


「ふっ。二人とも──って、おい!?」


 なんて考えている間、二人の言い合いは発展していた。

 お互いに宙に浮かび、距離を取って向かい合っている。

 

「今日こそ決着をつけます。どちらが主様の隣にふさわしいか」

「ふふっ、いいわよぉ。包容力じゃお姉さんに勝てないもんね?」

「ピキッ」


 ルーゼリアの挑発に、ココネは視線が鋭くなった。


「それは、禁句……!」

「ココネ!?」


 次の瞬間、ココネの周囲の景色が一変する。

 まるで“氷の世界”だ。

 ひゅおおおと舞う氷は、ココネを包んでいる。


 さらに、ココネ自身の姿も変わっていた。


「本気形態じゃねえか……」

 

 頭には角、手には氷の槍をたずさえる。

 後方には、あでやかに輝く水色の尻尾まで生えていた。

  

 ココネの種族は“竜少女”。

 氷を操り、絶対零度の世界を築く。

 あちらでは、最強種族の一角だった。


 対して、ルーゼリアも姿を変えた。

 

「うふふふっ。久しぶりにたぎるわぁ」

「おいおい」


 再びひらいたのは、巨大な真紅の羽根。

 焔が彼女を囲うように上がり、周囲にまで広がる。

 髪や体の一部にも、めらめらと火を帯びていた。


 ルーゼリアの種族は“朱雀すざく”女。

 炎を操り、全てを焼き尽くす。

 ココネと同じく、最強種族の一角だ。


 全力の形態を解放した両者は、それぞれ技を放った。


「【絶対零度アブソリュート・ゼロ】」

「【真紅の抱擁ルージュ・エンブレイス】」

「うおっ……!」


 氷と炎。

 相反する二つの力が、中央でぶつかり合った。

 俺には向かないようになっているけど、それでもすごい衝撃だ。


(この二人、たまに衝突するんだよなあ)


 ルーゼリアは言わずもがな、ココネも意外と気が強い。

 どちらも俺を慕ってくれているからか、気持ちがぶつかり合うのかも。

 嬉しいのやら、そうでもないのやら。


「って、のんに考えてる場合じゃねえ!?」


 少し気を逸らす間にも、二人の戦いは激化していく。


「ココネちゃん、遠慮はいらないのよ?」

「あなたもおとろえたのではないですか?」


 ──ドガアアアアアアアアアア!!


 言葉を交わしながら、両者はぶつかる。

 いや、両者というより、二人の領域同士が浸食し合う。

 一番割を食っているのは、魔物だ。


「はあああああ!」

「うふふふふふっ」

「「「ギャアアアアアアア!!」」」


 燃えたと思ったら凍らされ、瞬時に逆の事が起こり。

 増すばかりの衝撃に、見るも無残な姿になっている。


「主様の隣はココネが!」

「いいえ、お姉さんが!」

「……!」


 そんな中、二人はさらに力を高め始める。

 すると、周囲がバラバラと崩れ始めた。

 次に衝突すればどうなるか分からない。


「あ、あの、お二人さん!?」


 だけど、頭に血が昇った二人は周囲が見えていない。

 そもそもダンジョンって破壊されるものなのか!?

 それは定かではないが、とにかくまずい。


 でも、俺にもう二人を止める力は──。


「……!」


 そんな時、胸にぽうっと何かが灯る。

 この感覚は覚えがある。

 今ならあれが出来るかもしれない。

 

 そうこうしている内に、二人の技は放たれた。


「これで決めます!」

「終わらせるわ!」

「くっ……!」


 ええい、もう考えている暇はない。


「二人ともやめろー!」

「「……ッ!」」


 俺は直感に従って、剣を上から振り下ろした。

 すると、二人の放たれた技は中央でぱっくりと割れる・・・

 空間が断絶だんぜつされたかのように。


 驚いた二人は、バッとこちらに振り返った。


「主様!」

「カナタ君!」

「こ、これは……」


 【空間断絶】。

 俺が異世界で得た“七つの能力”の一つだ。

 でも、どうして急に発現したんだろう。


 不思議に思っていると、ルーゼリアは笑みを浮かべた。


「なーんだ、そういうことだったんだ」

「何の話だ?」

「こいつよ、こいつ」

「あ」


 ルーゼリアはふわっと魔物を浮かせた。

 異常個体と言われていたサイクロプスだ。

 焼け焦げているけど。


「こいつがね、カナタ君の【空間断絶】を宿してたんだ」

「え?」

「だからお姉さんが始末した。使いこなせていなかったし、こんな雑魚に持たせておくには、もったなさすぎるわ」

「……なるほど」


 何の因果か、サイクロプスは俺の【空間断絶】を宿した。

 ありえない強さと言われてたのは、そのせいだろう。


 そして先程、胸に灯った感覚。

 あのタイミングで、倒されたサイクロプスからスキルが俺に戻ってきたみたいだ。

 だからスキルを使うことが出来た。


「ちなみに、どうしてサイクロプスが空間断絶を持ってると?」 

「カナタ君の魂の匂い、かな」

「……あ、そう」

 

 とろんとさせたルーゼリアの目に、俺はぞぞぞっと背筋を凍らせた。

 何はともあれ、分かったことはある。


「俺の七つのスキルは、現代の魔物に宿っているのかも」

「ええ、そうかもね」


 だったら、色々と考えるべきことはある。

 ……ていうか、その前に。


「それはそうと、二人とも危なかったんだぞ」

「「へ?」」

「ほら。もうすぐでダンジョンが破壊されそうだったじゃないか」

「「……あ」」


 俺はあちこちの崩れた部分を指差す。

 従魔を正しく導くのも主の務めだからな。


「周りをよく見ること。ここはあっちの世界とは違うんだから」

「「はーい」」

「……後ろでり合ってるの見えてるからな」

「「……ぴゅーぴゅー」」


 二人は下手くそな口笛で誤魔化ごまかした。

 俺は息をつきながら、背を向ける。

 

「じゃ、仲直りしたら帰るぞ。色々と考えることができた」

「はい。主様っ!」

「しょうがないわねぇ」


 二人もお互いにうなずき合う。

 別に仲が悪いわけじゃないからな。

 たまに衝突するだけで、お互いに信頼もし合っている。

 

 そんな時、ふと前方から気配がした。


「ん? 今何かいた?」

「うふふっ。きっと気のせいよ」

「……そっか」


 だけど、ルーゼリアはその方向を妖艶な目で見つめていた。

 まるで、ずっと前から何かに気づいていたように。


 そして、後に俺は知ることになる。

 この一部始終が配信されていて、世間へ大きな衝撃を与えることになると──。

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