現代に帰還したら、災厄級の従魔たちまで付いてきた~俺を溺愛するヤンデレ従魔たちの無双が晒された結果、魔王だと勘違いされて大バズりしています~

むらくも航@書籍&コミカライズ配信中

第一章 魔王だと勘違いされています

第1話 帰還した現代

 『これで最後だ!』


 剣を持った俺が、巨大な闇を斬り刻む。

 そんな場面で、俺はびくっと体を起こした。


「はっ! ……夢か」


 周りを見渡せば、現代の自室。

 ボロい部屋の窓からは日が差し、体は布団に包まれている。


 まあ、夢というより記憶といった方が正しいか。

 実際に起きた事だからな。

 俺が異世界を救って数日前に帰還したことは。


 なんたって──


「おはようございます、あるじさまっ」

「……は、ははっ」


 従魔がこっちの世界まで付いてきたんだから。





「好きだねー、おにぎり」

「コンビニのおにぎりが一番です! はむっ」


 起きてから少し、コンビニ帰りの道。

 俺が笑うと、隣の少女はおにぎりをほおった。

 

 雪のように白い肌に、んだ蒼眼そうがん

 きらめく水色の髪は、左目を少し隠している。


 全体的に“氷”のような雰囲気を持つ少女だ。

 フードを被ってなければ、注目の的だろう。


 この子は『ココネ』。

 一言で言えば、俺の“じゅう”だ。


「異世界のもてなしも、おにぎりの前には完敗ですっ!」

「そりゃ安く済んでいいや」


 ココネと話しながら、ふと空を見上げる。

 自然と頭を巡るのは、つい数日前までの出来事だ。


 中学を卒業してすぐ、俺──久遠くおんカナタは異世界に飛ばされた。

 勇者召喚というやつだ。

 最初は動揺したものの、両親は蒸発し、現実で路頭に迷っていた俺にはちょうど良かったのかもしれない。


 それから地獄のような日々を生き抜き、魔王討伐の宿命を果たす。

 さぞかし大層なごほうがあると思っていた。

 だけど、今度は付け過ぎた力を危険視され、俺は処刑された。

 

 そうして、現代に帰還したわけだ。


「どうしたのですか? 主様」

「……いや」


 正直、辛かった。

 でも、目覚めて隣にココネがいたのは、心の支えになった。

 一緒に来た方法は教えてくれなかったけど。


 そして、帰還すると不思議な事がいくつか。

 まず、こちらの時間は一日しか経っていなかった。

 異世界で成長した姿は戻り、中学卒業したての姿というわけだ。


 だからなのか、ココネはさらに甘くなった。


「分かりました。主様はぎゅーをご所望なのですね!」

「はい?」

「素直に言ってくださいまし。ほらっ」

「ちょっ、ここ道端だからー!」


 今のココネは俺と同じぐらいの背丈(まだちょっと勝っている)。

 いや、俺が縮んだというべきか。

 普段は俺がなでていたのに、いつの間にか立場が逆転している。


「って、あれは」


 衝撃の事実はまだある。

 俺たちは音が聞こえた方に視線を移した。

 街中の大きなモニターだ。


『本日は、新たに出現したダンジョンの調査に来ています!』


 現代にダンジョンという迷宮が存在していること。

 しかも、それが日常と化していること。

 ダンジョンが発生したのは、何十年も前の話だそうだ。


「主様は知らないのですよね」

「そうなんだよねー」


 信じられなかったけど、数日も経てば受け入れるしかなくなる。

 召喚前と文化レベルがさほど変わらないのは、不幸中の幸いか。

 とはいうものの、やはり違う点はあった。


 中でも一番顕著けんちょなのが、ダンジョン配信だ。


おとリラです! 今日も探索していくよ!』


 ダンジョンでの様子を生配信するエンタメらしい。

 召喚前もスリリングな動画とか流行ってたもんな。

 ダンジョンを疑似体験できて、推し活もできるなら人気になるわけだ。


 また、ダンジョンの発掘はっくつぶつは、現代文明を支える貴重な資源。

 強い探索者の有無が国力を左右するほどで、記録はどれだけあっても困らない。


 そのため、数年前に勃興ぼっこうしたダンジョン配信というコンテンツは、国を挙げて推進しているそうだ。

 

「人ってすごいねー」

「ですねー」


 だけど、俺はダンジョン配信から目をらしていた。

 戦闘はしばらくりだと思っていたんだ。

 ──だからこそ、余計に驚いた。


「主様、あれを見てください!」

「ん……え?」


 また目を逸らした俺を、ココネは引き止めてくる。

 再びモニターを振り返ると、見たことあるものが映っていた。

 それもたくさん。


『『『グギャー!』』』


 目に付いたのはダンジョン配信者、ではなく。

 それをおそう方だ。


「あれって“魔族”か!?」

「はい。間違いないかと……」


 魔族。

 異世界で俺たちが戦っていた敵種族だ。

 最後はその王──魔王を倒して世界は救われたはずだった。


「なんでこの世界に……」


 どうやらこの世界では『魔物』と呼ばれ、ダンジョンで出現するらしい。

 地上に出て来られないのは、せめてもの救いか。

 だけど、気にならないはずがない。


「調査してみるべきなのか……?」

「ですが、主様はもう」

「……ああ」

 

 異世界での俺は、血のにじむような努力の末、最終的に七つのスキルを手にした。

 勇者らしい立派なものだ。

 あれのおかげで魔王に勝てたとも言える。


 でも、帰還した際に能力は全て失ってしまった・・・・・・・

 姿が戻ったことに由来するのか、何なのか。

 今すぐに答えは出ないだろう。


「もうお無理なさらなくても……」

「ココネ……」


 ココネは俺の手をぎゅっと握ってくる。

 辛い事があった後で心配してくれているんだ。

 俺もまだ乗り越えきれてない・・・・・・・・・が、ふっと笑って返した。


「ありがとう。この世界は平和そうだし、何か仕事を見つけて──」


 なんて会話をしていた時、ふと通行人の話が聞こえてくる。


「すげえよなあ、ダンジョン配信者」

「あー強い奴ってうらやましいよなあ」

「どんだけ稼いでるんだろうな!」


 ん?


「トップはとんでもない額稼いでるらしいぜ?」

「覇権コンテンツだしなあ」

「もう芸能人なんて話にならないよな」


 そうして過ぎて行った者たちを見ながら、すーっと息を吸う。

 それからココネへと向き直った。


「──ココネ。話がある」

「な、なんでしょう」

「俺はダンジョン配信者になる」

「主様!?」


 ココネが珍しく声を上げる。

 久しぶりに目が点になるほど困惑していた。


 ダンジョン配信者がそんな儲かるとは思わなかったんだよ。

 でも、よく考えれば、国を挙げての事業なら納得はいく。

 

 しかも、俺はもう勇者じゃないんだ。

 こっちの世界の俺は、中卒で両親が居なくて、就職先も決まってない。

 ぶっちゃけほぼ詰んでる。


「悪いな。俺の決心は固い」

「目が“おドル”になってます……」

 

 だったら、少しばかり知識を生かしてもいいじゃないか。

 勇者の能力は失った。

 それでも、何千何万と戦った相手なら出来ることはある。


「あの、辛いお気持ちとか、悲しい思いっていうのは!」

「大丈夫。もう全部乗り越えた」

「さっきまでのお話が、全部フリになってます~!」


 こうして、心配するココネを振り切りながら、俺は早速ダンジョンへと向かった。

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