第4話 異世界での初夜と夜伽

「私、サキュバスなんです。誠心誠意ご奉仕致しますわ」


 シルフィさんは俺に覆いかぶさるようにベッドに押し倒す。


 シルフィさんの妖艶な笑みをどこか獲物を狙う肉食獣にも似た目をしていた。


 つまりシルフィさんはサキュバスだからエッチによって、魔力を充填できる……ということ?


 それで俺が力を貸すと言った=シルフィとエッチをするってなったということなのか。


「ほら……杏輔様もお脱ぎになって下さいまし」


「いやいや……さすがにちょっと待とうよ」


 さすがにじいちゃんが大事にしていた人だ。


 そんな人と軽率に寝るなんてできない。


「仕方がありませんわね……あまり手荒なマネはしたくないのですが……魅了チャーム


 シルフィさんの右目がピンク色に光る。


 いやぁ……水色とピンクって綺麗だなぁ……。


「それでは杏輔様……お服をぬぎぬぎしましょうね」


「ぬぎぬぎ……? そっかとりあえず脱ぐか」


 ちょっと暑いような気がしないでもないし。


 それにしてもシルフィさんは綺麗だよな。


 近くで見れば見るほど、整った顔をしているし……


「はっ! 俺はいったい何を?」


 気が付いたら俺はパンツ一枚だけの姿になっていた。


 ということは俺は服を脱いだということだけど、その間の記憶がない。


「さすがは権三郎様のご子孫。もう私の魅了チャームが解けてしまいましたわ」


 唇に指を当てる。


 月光に照らされた唇が艶めかしい。


「ですがこれで良かったのかもしりません。できる限り無粋なマナはしたくありませんでしたから」


「もう既にしている気がするんだけど?」


 パンツ一丁の俺は少し嫌味を言い返す。


「そんなこと言わないで下さいまし。私……これでも寂しかったのですわ」


「え?」


 シルフィさんの目が潤む。


 やばい。俺、余計なこと言ったよな。


 俺は想定外のギャップに困惑していた。


「権三郎様は幼かった私に一切、手を出しませんでした。私のようなサキュバスが生活には十分すぎる魔力だからという理由で」


「え? それって……」


「そうです。私はサキュバスの義務を果たせていないのです」


 シルフィさんは気まずそうに目を逸らす。


「それでも権三郎様にとっては良かったのかもしれません。でも私の心が満たされるかどうかは別の話でございます。私の心は常に飢えておりましたのです」


「だったら尚更……」


「私にまた寂しく夜を過ごせと仰るのですか? 杏輔様……そんな殺生なことを言わないで下さいまし」


 簡単に魔力を供給できるやり方を探せば――


 ――なんて言葉を飲み込む事しかなかった。


「サキュバスにとって主人に尽くすことは存在意義そのものなのです。その対価として生きるのに必要な魔力を頂くのでありますわ。私は権三郎様に対して恩があることはたしかですが……それとこれとは別でございます」


 シルフィさんの言葉は切実だった。


「お願いでございます。本当の意味で私の主人になって頂けないでしょうか? 杏輔様との幼い頃の約束だけが私の心の支えだったのです。それをちゃんと形にして叶えて頂けないでしょうか。契りの儀を交わして、私を杏輔様のモノにして下さいまし」


「分かった。分かったよ……」


「ありがとうございます。シルフィは幸せでございます」


 俺はシルフィさんと会えなかった間の事情を知らない。


 だったらいっそのこと、シルフィさんの望む通りにしてあげた方がいいんじゃないだろうか。


 それがシルフィさんが望む幸せになるなら、受け入れてあげることが正解なんじゃないか。


 俺は何も知らない癖にいっちょ前にそんなことを思った。


「これでもサキュバスの端くれですから……杏輔様の奥で望まれているものくらい探し当てますので」


 そういって、シルフィさんは俺の敏感なところに撫でるように触れる。


「~~っ!!」


 俺の口から声にならない叫びが出る。


「あぁ、こちらでございますわね」


 シルフィさんはイタズラっぽい笑みを浮かべる。


 そのまま重点的に俺の弱い箇所を責める。


 俺は為すすべがなく、シルフィさんのされるがまま。


「私の指の動きに通じて、そこまで反応されるなんて……杏輔様は可愛らしいですわね」


 全身が感じたことに快楽に支配されていく感覚。


 言い返そうにも何も言い返せない。


「ふふふ……それにしても本当にご立派ですわね」


 シルフィさんは俺の下半身に手をまさぐる。

 

 シルフィさんの手が動く度に反応して、腰がのけぞった。


「もしも杏輔様が動けなくないと仰るのでしたら、私が面倒見て差し上げますわ」


 シルフィさんは甘い言葉を耳元で囁く。


 耳に当たる息も感じるくらいに全身が敏感になっていることが分かる。


「好きなだけ寝て食べて、好きなだけ寝て、好きなだけ甘えて下さいまし。その対価にちょっとだけ私のワガママさえ聞いてくれるだけで良いのです」


 それはすごく蠱惑的な誘い。


 でも、


「シルフィさん……それはダメだ」


 俺はなんとか声を絞り出す。


「俺はじっちゃんも好きだけど。それと同じくらいシルフィさんも大事なんだ」


 勘違いをしてほしくないのは、俺は何もしたくない訳ではない。


「だから……俺もここにいても相応しくなるように頑張らせてほしい……」


 それだけは譲れない一線。


 じいちゃんから託されたこの場所別荘をもっと快適にしてあげたい。


 そうじゃなきゃ、別荘ここに来た意味がない。


 ゆっくりと自分のペースでやっていくつもりだけど、


 享受されっぱなしの関係は嫌だ。


「嬉しいですわ。それならば杏輔様の愛に全身全霊で応えないといけないですわね」


 シルフィさんは嬉しそうに笑みを浮かべて全体重を俺の身体に預けて、


「せめて今だけは……私に身を預けて下さいまし」


 そうして夜が明けるまで、俺はシルフィさんと身体を重ねるのであった。

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