第3話 シルフィの夜這い

「お待ちしておりました。お食事の用意はできております」


 お風呂から上がると木の机にご飯が並んでいた。


 パンやスープ、サラダ。それと鶏肉らしいステーキが並んでいる。想像以上に洋食で驚いた。


 めちゃくちゃ空腹を刺激する良い匂いがする。


「こちらはハライラの麦パンとカボチャッチャッのスープ。コカトリスのステーキとなります」


「え? なんて??」


 全部聞いたことのない食材。というかコカトリスって……。


 空想上のモンスターじゃないのか??


「ふふっ……たしかに、杏輔様の世界には馴染みのない食材でございますよね」


 シルフィさんは楽しそうに笑う。


 俺も久しぶりに会った友人と話す気分で心地良い。


 当時のシルフィは小さかった。


 本当に立派になったよなぁ……。そんな俺もおっさんになった訳だし。


「そうですね。コカトリスとかゲームの中でしか聞いたことがないです」


「でも美味しいですよ? 淡白ながらジューシーですから。お口に合えば幸いですわ」


「それは楽しみですね……」


 見てる感じだと、日本みたいにインスタントなご飯ではなさそう。


 つまりシルフィさんの手作りご飯。


 他人の手作りご飯なんて何年振りだろう。


「ところで、シルフィさんは食べないんですか? 一人分しかないように見えるんですけど……」


 明らかに一人前の食事しかない。


 つまりここで食事を取るのは俺だけ。


 それはなんか寂しい。


「主人と共に食事をとるなんて恐れ多いですので」


「せっかくなら一緒に食べないですか? シルフィさんと一緒に食べた方がもっと美味しく頂けるような気がしますし」


「よろしいのですか?」


 シルフィさんは少し驚いた顔をする。


 そんな驚くことではないと思うんだけど。


「もちろんです。気にしなくても良いです。今後も一緒に食べましょ」


「ふふっ……承知致しました。それではお言葉に甘えさせて頂きます」


 シルフィさんはそう言うと、キッチンの方に戻る。


 おぼんの中には俺と同じメニューが置いてある。


 シルフィさんはそのまま机の上に置いた。


「お待たせ致しました」


「そんな待ってませんけどね」


「ふふっ……恐縮です」


 大したやり取りじゃないはずなのに、この時間がすごく心地良く感じた。


「それじゃあいただきますか」


「そうですわね。いただきましょう」


 俺とシルフィさん。


 二人で手を合わせて、ご飯を食べ始める。


 まずは気になるコカトリス。


「うわっ。たしかに美味しい」


 コカトリスって名前だけなら狂暴なイメージがある。


 だけどお肉は想像以上に肉汁は甘く、しつこくない。


 全体的に食べやすかった。


「ふふっ……お口に合ってなによりです」


「いやいや、本当に美味しいよ」


 俺がそう言うと、シルフィさんは両手で頬を隠して。


「あんまり褒められると照れますわね」


 手の隙間から頬が赤くなっているのが見えた。


 そんな反応されるとこっちの方が照れてしまう。


「そ、そういえば、日本に戻ろうと思えば戻れるんですかね?」


「杏輔様のお力が必要でございますが、お望みとあれば……」


「何をするか分からないけれど、俺の力が必要なら喜んで貸すよ」


 それなら資材を調達して、別荘をDIYできるから色々とやりやすい。


「ありがとうございます。喜んでお貸しするなんて……私も嬉しいですわ。それではまた後ほどに」


 シルフィさんは何故か目を細めて顔を赤らめる。


 なんでそんな表情をしているか分からないけれど、また後ほどと言っているから、必要な時に声をかけてくれるということだろう。


「ごちそうさまでした」


 何故か初々しい雰囲気の中、俺とシルフィさんは食事を終える。


 俺は後片付けを手伝うとシルフィさんに言うが、


『今日は初日でございますから、ゆっくりして下さいまし』


 と断られてしまった。


 仕方なく、シルフィさんに用意されていた部屋に向かう。


 部屋の中はベッドと小さいスタンドデスクが一つ。


 俺はベッドに寝そべる。


 ベッドは決して柔らかいとは言えないが、敷布団を重ねてくれていたおかげで不快感はない。


 きっとシルフィさんが気を遣ってくれたのだろう。


「本当に……シルフィさんには頭が上がらないな」


 俺は一人ベッドの中で呟く。


 そんなシルフィさんと天国にいるじいちゃんのためにできることで恩を返していこう。


 建物自体は老朽化してきているが、ひとまず住む分には問題なさそうだ。


 こうして考えると課題が多い。


 でも納期がないだけ、すごく気が楽だ。


 施工管理で働いていた時は、常に時間に追われていた。


 その日のタスクが終わらなければ、納期に影響が出る。


 一つの現場ならまだいいけれど、複数個所の現場を見なければいけない時だってやってくる。そうなった時は休みなんてものはない。


 いくら残業代が出るからといっても限度がある。


「まぁ、その経験が活かせればヨシっ! ……なんてな」


 右手を銃の形にして前に出す。


 だからと言って、何かが変わるわけではないけれど、景気づけにはもってこい。


 なんてことを思っていたら、


「なにがヨシッ! なんでしょうか?」


 ドアの隙間からシルフィさんが覗いていた。


 くっ……くっそ恥ずかしいんだが!?


 見ていたなら見ているって言ってくれよ!


「い、いや……なんでもないですが、どうしました?」


 俺はシルフィさんに尋ねる。


 もう夜も更けてきたから、そろそろ寝るつもりではあったから。


「完結に言えば、夜這いでございます」


「え? よ、夜這い???」


「ええ。夜這いですわ」


 そう言って、シルフィさんは俺が寝ころんでいるベッドのフチに座る。


 シルフィさんは妖艶な笑みを浮かべている。


「杏輔様がお戻りになったおかげで、温泉の治癒能力も戻りました。ほら……おかげで傷が消えなかった手も綺麗にすべすべになりました」


 シルフィさんは俺の鎖骨を指で優しく撫でる。

 

 優しく撫でられているからこそ、過敏に意識してしまう。


「それに仰ったではありませんか。日本に戻るために喜んでと」


「いや、それと夜這いになんの関連があるか分からないんだけど」


 俺は困惑しながらシルフィさんに尋ねる。


「杏輔様がこちらにお越しの世界にお越しの際に魔法陣を通ったと思いますが……そこを行き来するのに魔力が必要なのでございます」


「魔力って……?」


「細かい説明は省きますが、杏輔様が私との夜の営みさえ受け入れなて下されば、魔力を充填可能なのです」


 夜の営みって……つまり、そのエッチなことってことだよな??


 ダメだ。今のところ魔力の充填(?)と夜の営みが結ぶつかない……!


「それに今回は杏輔様は悪いのですわ。最初は我慢しようと思ったのですが……申し訳ございません。やはり本能には抗えないようでして」


 シルフィさんはそう言いながら、メイド服を脱ぎ始めた。


 肩から脱いでいくと、月灯りにきめ細かい白い肌が覗かせる。


 その白くて綺麗な肌に黒の下着がより肌の白さを際立たせ……いや、でっか!


 なんだそのおっぱい質量! 


 メイド服の上からでもデカいと思っていたけれど、さすがに大きすぎるだろ!


「ふふふ……やはり杏輔様はこちらがお好きなようですわね」


 シルフィさんは自らのおっぱいを両手で挟んでアピールする。


 いやいや……こんなん誰でも見ちゃうわ。


「昔から杏輔様が胸に熱い視線をお送りしていたのは分かっておりました」


 シルフィさんはにっこりと優し気な笑みを浮かべて、


「よろしいのです。お好きなだけ堪能して下さって」


 俺をその大きなおっぱいに抱き寄せる。


「んぐっ!」


 その圧倒的なおっぱい質量に顔が沈む。


 とても柔らかくて、温かい。


 そしてすごく良い匂いがする。


 バニラのように甘く、それでいてブルーベリーのようにスッキリとした甘酸っぱさが混じり合う。


 本能的に濃厚で危険な香りがした。


「ふふふっ……あまり暴れると困りますわ」


 そう言いながら、シルフィさんは俺を優しく包み込む。


 すると、俺はあることに気づく。


 黒い尻尾がにゅるにゅると動いている。


「どうかされましたか?」


 形はまるでアニメでみる悪魔の尻尾のようだけど……。


 もちろん、俺に尻尾が生えている訳ではないから、尻尾の主はただ一人。


「あぁ、そういえば言っておりませんでしたわね」


 俺の目線に気づいたシルフィさんは、自らの黒い尻尾を手に触れる。


「私、サキュバスなんです。誠心誠意ご奉仕致しますわ」


 この状況……誠心誠意ご奉仕されたら死ぬのでは??


 俺はそんなことを思いながら、


 シルフィさんに押し倒されるのであった。

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