第9話
藤「人のベッドで、何してんの?病人さん」
直『あ…あの…』
藤「へーえ…直井くんは、そんなことするんだね。具合悪くて借りたベッドで…」
直『違います!』
藤「違わねぇだろ」
手近にあった椅子に座り、課長が足を組んだ。
口の端があがる。意地悪な笑みがちらつく。ネクタイ以上に俺を縛りつける、暗くて熱い魔法。
藤「続けろ」
直『え…ぁ…、あ』
藤「俺は手伝わない。ただ、ここで、見てる」
直『や…やめてくださ…』
藤「どうして?ここは俺の家だ。俺のベッドだ。どこで何をしようと勝手だろう」
そんな言葉さえ俺の体を疼かせる。
もうどうしようもない。言われた通りにするしか、ない。
直『…っ、はぁ…あぁ…っ』
藤「……」
直『っあ…、あぁ…課長…』
藤「何だ…?見られんのがそんなに好きなの?」
直『ち、が…』
藤「じゃあ…何?」
課長が立ち上がった。至近距離まで詰められて、しっかりと視線を合わせてくる。
息がかかるほどの近さ。あられもない俺の姿を、目を細めて見ている。
藤「言えよ」
直『か、課長…課長が…っ、俺のこと、さわってくれたらって、思うだけで…』
藤「……」
直『ほんとは足りないけど…課長…見ててくれるだけでもいいから…俺…あぁ、課長…っ』
藤「…この野郎…」
直『あぁ、課長…もっと……おれ、課長のベッドで、こんなこと…やぁん、あ…』
ベッドの上で身をよじる。
もうこれで本当に愛想を尽かされるだろう。
あんな大見得切ったくせに、馬鹿なやつだと思われているに違いない。
でも、こんなに。俺は今こんなに、この人で満たされてる。
直『か、ちょ…お願い…少しだけ…』
藤「…もう手は出さないって約束だ」
直『やだぁ、俺ひとりで……課長、ほしい…おねがい…』
藤「……」
直『じゃあ、じゃあ、俺がっ…』
少しでも触れたくて、手を伸ばした。課長は避けなかった。
恥も何もない。課長のそこも、もうすでに大きくなっている。
直『あ…すごい…』
藤「うるせぇ」
直『はぁ、はぁ…課長、待ってて…』
むしゃぶりついたら、すぐに課長の息も上がるのがわかった。
ちらりと顔を見れば、眉根がひどく寄っている。
自分のを触りながら課長のに舌を這わせる行為は、とてもいやらしい。
直『課長…、気持ちいい?』
藤「はぁっ…、うるせぇ…はぁ…あ、っ」
直『気持ちよくなってください。お願い…俺だけなんて、やだもん…』
藤「おまえ…俺とはもうしたくねぇって言ったくせに…!」
直『はっ、は、あ、課長、課長…』
藤「ぅあ…、直井っ…!!」
直『あぁ、かちょう…!!』
俺が弾ける瞬間、目の前にも白さが広がった。
顔や髪にたくさんかけられてしまった、そう気づいた時には、もう手遅れだった。
藤「…っ、はぁ…はぁ…」
直『……』
藤「おまえ…」
直『すみません、でした…』
乱れた呼吸でベッドに寝そべったまま、そう呟いた。
課長も倒れ込むように椅子に座り、俺から視線を外している。
藤「…直井。もうそろそろ朝だ」
直『えっ』
藤「外見ろ」
そう言われて、窓の方へ目をやる。確かにカーテンの隙間が、まぶしくなりつつあった。
藤「俺はこのままシャワー浴びて、会社に行く」
直『え…あ、でも』
藤「おまえは今日は寝てろ。さすがに体がきついだろう」
直『……』
藤「合鍵置いてくから、出入りは好きにしろ」
そう言い置いて、課長は行ってしまう。
冷たい表情。押し殺すような声。
さっきまでの溢れるような想いが、一気に下降していくのがわかった。
ああ―――俺は、何をどこで間違ったのかな。
課長。
俺ほんとは、あなたのことが…
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