第13話
そこは、藤くんが今暮らしているところ以上の広さがあった。
夜中に突然ギターを鳴らしたくなった時のために、防音のスペースもちゃんとある。
言っとくけどかな~り広いよ?
これ金かかってるんだろうな、なんて下世話な考えも脳裏をかすめたけど、素直に甘えることにした。
直『本当に、俺もここを使っていいの?』
藤「うん。俺だって好きに使う。いる物は適当に運び込もう。そんで、いつか…」
直『いつか?』
藤「いつか今の家より、ここに帰ってくる方がいいと思えるように」
直『わかった。頑張る』
藤「…好きだよ」
何もない新しい部屋で、そっとキスをした。
電気がつかないから、光は外から入ってくるものだけ。
あぁ、ずっとこうしていたい。
流されてもいい?だめ?
この部屋、布団とかないんだけどなぁ。
俺は今日37になったばっかの、立派なおっさんなんだけどな。
そもそも今日は帰るって決めてたような…
藤「部屋に戻ろう」
直『うん』
愛してくれて嬉しい。この手を握り続けることを選んでくれて、本当に嬉しい。
藤くんの中で“音楽をのぞけば一番”の位置が、どうか俺であり続けますように。
「いくつになってもチャマはエロいな」とか言ってるエロ親父に喘がされながら、俺は涙を隠す。
完全に俺だけのものに出来ないなら、この部屋に彼を閉じ込めてしまいたい。
もちろん、そんなこと絶対にしないけど。
――でも想像すると、ちょっとだけ笑えるから。
直『あ、ぁあ…っ、ふじ、く…!』
藤「ちゃま、チャマ…!出す、ぞ…!!」
直『く、ぅ…っ!!』
藤くんを独占できない切なさを、藤くんの隣にいられる喜びで包む。
明日からまた仕事だ。
音楽と戦う藤くんに寄り添う、大事な俺の役目だ。
おやすみ藤くん。
また、明日。
藤原基央が眠りにつく頃、眠ったふりをしていた直井由文の目がそっと開いた。
――無音のままの電話が着信を知らせている。
あの頃より格段に小さくなった機械を持って、外に出る。
直『もしもし』
増「起きてた?」
直『世界で一番好きなやつと愛し合った直後だよ』
増「へぇ…」
【了】
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