第5話
藤「驚かせてごめん」
声をひそめて、まずは謝った。
そして思うところを言う。
藤「俺は…死んでるんだと思う。たぶん」
まぁ九分九厘、間違いないだろうけど。
升「たぶん?」
藤「いや…絶対、かな」
増「どうしてそう言い切れるの?だって、現にこうして喋ってるじゃん」
ヒロがちらちらとこっちを見てくる。
俺に倣って声のトーンを落とし、周りに気づかれないよう仕草もそっけない感じで。
でも確実に、俺を俺として扱ってくれてる。
藤「じゃ、これ見て」
手近な壁に腕を突っ込んだ。
予想通り、俺はどんな障害物も完璧に素通りすることが出来るようになっていた。
増「え?…ぇええ!?」
藤升「「しーっ」」
ヒロの素直なリアクションが嬉しい。
何だろう、会話の一つ一つが、一挙手一投足すべてが、自分の存在証明に繋がってるみたいだ。
升「おま…、え、壁抜けが出来るのか」
藤「おう。インド人もびっくりだろ」
増「すごい…。あ、もしかして空も飛べたりする?」
藤「出来るんだなー、これが」
増「まじかぁ。ちょっとやって見せてよ」
藤「あとでな、ここで騒いだらマズイだろ。それよりさ…チャマは?来てないの?」
そう聞いたら、2人は表情を曇らせた。
升「チャマは…普通だよ。普通にしてる」
増「ただ、今日のこれ…公式葬には来てない。地元でやったお通夜も密葬も…、チャマは出てない」
出てない?なんで?
わけがわからず黙り込む俺を、2人が言葉を尽くして元気づけようとしてくれる。
升「いや、でもチャマの家には居るから」
増「具合が悪いって言って、顔を見せなかっただけだから」
藤「どうして…」
升「…分からない。ただ、それ以外の仕事には普通に来てる」
何だろう。
悲しむなり、悔しがるなり、あいつなら何かしら大きなリアクションを取りそうなもんじゃないか。
意外とそうでもないのか。
具合悪いって、そんなに?
寝込んだりしてるのか?
そもそも…、本当なのか?
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