第12話

わざと無愛想な声でそう言ったら、「ご挨拶だね」と笑われた。



増「今日の営業が終了しましたーっていう報告。予想はついてると思うけど、店長すっげぇマジギレだよ」

藤「あ、忘れてた」

増「忘れてた!?店長のことを!?」



おまえ本当にNo.1なの、と驚いた声で言われる。

それでもヒロの口調にそこまで切羽詰まった感じがないのは、今日一晩だけのことだったからだろう。


ただ…明日や明後日もこの調子でぶっちぎったら、どうなるか。この電話だって、要するにそれを心配してかけてきているはず。



増「明日は来るよね?」

藤「………」

増「ねぇ、本当にどうしたの?何かトラブル?」

藤「いや」

増「じゃあ何。女?」



ほんの少しだけ揶揄するような調子になった。

それに対してムカついたりはしない。

何だかんだ言っても、俺たちが身を置く世界では、特定の誰かに入れ込むことは御法度だから。



直『ふーじくん、出来たよ。食べよう』

藤「あぁ、うん」

直『あ、ごめん。電話中か』



短いやりとりが聞こえたのか、ヒロが黙り込んだ。



藤「もしもし?とにかく、今日は悪かったな。明日はちゃんと行くから…」

増「………ねぇ」

藤「え?」

増「今の声、誰?」



あ。まずい。

直感でそう思った。



藤「別に…友達だよ」

増「そう?なんか、チャマの声に聞こえたんだけど」

藤「……っ」



揶揄が、疑念へと変わる。



増「もしかして、焼けぼっくいに火でも付いちゃった?」



そして、疑念から侮蔑へ。



藤「そんなんじゃねぇよっ…つぅかおまえ、知ってたのかよ!」

増「…バカ」



動揺を隠せない俺の声で全てを悟ったのだろう。

長い付き合いの友人は、溜息をついた。



増「やっぱりあの時、俺も行っとくべきだったかな。同窓会まがいの飲み会なんて、おまえが1人で行くとは思わなかったし」



―――最終的にその言葉から伝わってきたのは、哀れみだった。

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