第20話
思い返してみれば、4人はいつも4人だった。
1人でいようが集団の中にいようが、自分の帰るべき場所は、心の拠り所は、常に4つ揃った笑顔の中にあった。
升「あれ」
藤「…ん?」
升「悪い、これ小屋に置いてくるの忘れてた。ちょっと出てくる」
藤「早く戻れよ」
せっかく作った飯も汁も冷めてしまうじゃないか。
ごく自然にそう思うことさえ厭わしい。
生きるために働き、空腹を感じては食事を摂り、それなりに喜怒哀楽も感じ、普通の暮らしを続けること。
それこそが、あの2人が身を挺して自分に与えてくれた“生”だ。
それでも、ふとした瞬間に喪失感がこみ上げてくる。
苦しみではない。
ただただ、ぼぅっとした虚無。
原城陥落の日からしばらくの間は、絶望と悲嘆で我ながら情けないほど自暴自棄になっていた。
升が世話を焼いてくれなかったら、行き倒れるか、あるいは幕府側に見つかって捕らえられるか…いずれにせよ、こうして生きていることは出来なかっただろう。
それは理解している。
それでも、こんな状態で生き続けなければならないのはきつい。そう口に出せないのが辛かった。
数年後、あるいは数十年後、自分はどうなっているのだろうか。
生きているとしたら、それは幸せな生なのだろうか。
湯気が立たなくなった夕餉の膳を見つめながら、心の内で暴れる悪魔と戦った。
己との戦いは無限の孤独であるとともに、どれほど続いても決して死ぬことが出来ない。
それでも、焼け落ちた原城跡に未だ残された多くの遺骸に比べれば、こんなものは苦しみのうちにも入らない。
きっとこれが自分に課せられた罰なのだろう…
外へ出て行った升の大声が聞こえてきたのは、そう思った時だった。
悲鳴とも驚愕とも怒声ともつかないそれは、あの日の光景を嫌でも思い起こさせるもので。
―――ついに来たか。
家の外をそっとのぞくと、升のそばに2人分の人影が見えた。
わずかにその手に見えるのは、刀らしき影。
おそらくは自分の正体がばれて、追っ手が差し向けられたのだろう。
…天国へ行ったら、由文と弘明に何と言い訳しようか。
いや、そうではない。
その前に生きることを考えなくては。
あそこで升を無駄死にさせることがないようにしなければ。
刀に手を伸ばし、外へ出た。
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