第五章
第19話
その後、幕府は禁教令をいっそう強化し、鎖国政策を推し進めていった。
また一国一城令の徹底が伝えられ、各地で廃城となった城郭を反乱の拠点として使えないようにするため、破壊が進むこととなる。
原城跡に立て籠もった37,000人は皆殺しになったと発表された。
しかし前述のとおり、この乱には宗教弾圧以外の側面も大きかったため、犠牲者たちが“殉教者”としてヴァチカンに認められることはなかった。
焼き払われた原城跡にも、やがて夏草が生い茂る。
四郎と升が生きのびたことを知る者は、隠れキリシタンの中でもごくわずかだったが、それでも細々と繋がりは続いていた。
升は四郎を支えることで、なんとか己を保っているように見えた。
生きるための農漁業と武芸の稽古を両立しながら、他の逃亡者たちと連絡を取り合う日々。
それは一時も気の休まることのない、緊張の連続だった。
そんなある日のこと。
升「ただいま」
藤「…おかえり」
幕府は隠れキリシタンの根絶を謳いながらも、島原・天草の住民を完全に掃討することはなかった。
どこの土地でも行われているような形式通りの異教徒狩りが終わると、その後は何ごともなかったかのように元の暮らしが戻ってきた。
升「苗の準備は出来た。明日から頼むな」
藤「こっちも、租税分の荷造りは終わったよ。残りは氷室に持って行けばいいだろう」
升「ありがとう。でも手が足りないから、運ぶのはもう少し先になるな」
要するに、下手に逃亡者たちをあぶり出して、この地域一帯の特産物であるナマコ・アワビ・フカヒレ等、俵物の作り手がいなくなってしまっては困るわけだ。
国外への輸出品となる海産物は、幕府にとって貴重な財源だから。
―――だから。
父も友も、皆が死んだのに。
あんなに大勢の人々が殺されたのに。
あれほどまでに狙われた自分が、今こうしてむざむざと生きながらえている…
升「どうかしたか?」
藤「あぁ、いや。夕餉にしようか」
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