第37話 みなみの不可思議な成長

「お花畑のみんなー! 1週間ぶりの恵みの雨〜! ぽつぽつぽつ! 元気になぁれ! 水の申し子、水沢みなみだよー!」


“こんすいー”

“み、水不足で……死にそうだったぜ……がくっ”

“お花さーん!? やっと水がきたんだ! もう少し頑張れぇ!!”

“久しぶりだー”

“久々のみなちーは効くわぁ”

“桐島の件で色々あったのかな?”


「あはは……ごめんね配信長い間休んで。詳しくは言えないけど色々あって……」


 桐島才人の件を家族に報告したら凄く心配されちゃって、1週間家から出られなかったんだよね……配信も止められちゃって。


 説得するの大変だったなぁ。


 しかもあの一件で何故か私を称賛する声も数多くあったみたいで、登録者数もかなり増えている。


 SNSにもたくさんリプが飛んできて、もう色々はちゃめちゃな状態だ。


 ただ今日から再開! 自分のペースを崩さずにやっていかなきゃ!


「やっぱり時間が空いたときの配信はダンジョンでしょっ! ってことで、来ましたー! 苺ダンジョン!」


“ド田舎にあるやつかー”

“うわーここ大変じゃない?”

“結構強い魔物が出るイメージある”


 今日は新たなダンジョンに来ている。


 苺ダンジョンって名前だからって苺が生えているわけじゃない。


 ただイチゴ農園が近くにあるからって理由だ。


 かなり田舎で行くのに苦労したけど、やっぱり配信者だから日々違うダンジョンに挑んだほうが映えやすいとここを選んだ。


 ただ符合する点も存在して、ダンジョンの中は大自然そのもの。


 身の丈を超える木々が生い茂り、木の葉っぱの影が私を覆う。


 至る所に飛んでいる虫が少し体に怖気を感じさせていた。


 そこまで虫が無理ってわけじゃないんだけどね。


 踏みしめる地面も少し柔らかく、上を向くと青い空が見える。


 まるで別世界に転移してきたかのような感覚だ。


「まずは探索してみようか! レッすいゴー!」


 ということで、ダンジョンの攻略を開始する。

 

 なんとなく道っぽく見える部分を、ゆっくりと進んでいく。


 虫のさざめきによる聴覚への妨害や、かき分けなければ通れない草木が大変だけど、能力を使って結構スムーズに探索し始めることが出来た。


 10分程歩き、遂に本日初めての接敵を果たす。

 

「トレントだ!」


 変わらず見える森の違和感に気づいた。


 私の声に呼応して森の中の一つの木が動き始める。


 人面を体に宿した木の化け物。


 木の根が足のように働き、人間のように直立でわさわさと歩く。


“きめぇえええ!”

“実際に見るとリアルだな……こっわ”

“どことなく香る不気味な雰囲気”

“よく見つけたなー”


 トレントはD級の魔物であり、普段は周りの木に擬態しているから発見するのが結構難しい。



 ただ私は仮にもB級探索者。


 身体能力だけでなく気配にもそれなり敏感な自信がある。


 だから事前に見つけることが出来た。


「『水刃』!」



 ――スパン!



 三日月状の大きな水の刃を産み出し、トレントを真っ二つにした。


 よしっ!


“ない水!”

“なんかみなちー強くなってない?”

“確かに……前までの力なら一撃で倒せないかも……”

“ね。水刃も大きくなってる気がするし”


「え? そういえば……」


 さっき出した水刃の威力……確かに前よりも上がっている気がする。大きさも違うかも……


「私も少しは成長したってことなのかな?」


“気のせいかもしれないけどね!”

“目指せA級レベル!”

“B級だからA級レベルにはいけるかもしれないし”

“天城滅也という例外がいるけどww”

“あれは参考にしちゃダメ”


「滅也くんは最強だからね! なんと言ってもあの桐島才人を倒したんだし!」


“あれはスカッとしたね!”

“あの件について話してよー”

“滅也を信じ抜いた女ってことで株爆上がりよ?”


「それはまた今度ね! ちゃんと雑談配信で話すから!」


 時たまコメントに反応しつつ、それからもしばらく探索を進める。



 そしてキリの良い所で引き返し、ダンジョンの入り口まで戻った所で、私は今日の配信を終えた。


 







「私の実力が上がっている……」


 帰宅している道すがら私は1人考える。


 配信中に何度もスキルを使ったけど、やっぱり全体的に出力が上がっている気がする。


 正直あまりスキルの成長について考えていなかった。


 覚醒した時の能力から人は大きく成長はしない。

 

 もちろん体の動かし方やスキルの扱い方を学んでいくことで最初の時よりは強くなるけれど、それは力を十全に発揮出来ていないだけ。言うなればそれが出来てやっと覚醒したランク相応の強さになるだけだ。


 結局私が一度に出せる水の量には限度があるし、やれることにももちろん制限がある。



 そしてそこから更に成長するために何をすれば良いかは正確には不明とされている。



 戦闘経験が豊富でもあんまり能力が上昇しない人もいれば、あまり戦っていなくてもいつのまにか強くなっていたという人もいる。


 これに対しては様々な意見が出ているけど、はっきりとした結論は出ていないとのこと。


 一応魔物を倒している人ほど強くなっているという傾向はあるらしいんだけど……毎日ダンジョンに潜っている専業の探索者であっても実力がほとんど変わらない例は珍しくない。


 スキルだけでなく身体能力においてもそうだ。例えばE級探索者がプロの格闘家になれるほどに体を鍛えてもそこまで力は変化しない。


 既に高いレベルの身体能力を得ているからだ。


 だから身体能力を上げる手段も現状ほぼ不明と言って良い。


 ちなみにF級探索者に限っては元々が弱いから体を鍛えることで大きく力を上げることが出来るらしい。と言っても結局非覚醒者の域を出ないらしいんだけど。



 ――ただ私は今回、確実に強くなった。



 数年間で初めて感じたスキルの成長。



 何故かは分からない。今までこんなことは起きなかった……



 ただ考えられるとすれば……



「もしかして滅也くん……なのかな?」



 F級でありながら異次元の強さを身につけた滅也くん。


 彼から何かしらの影響を受けたのかもしれない。


「これなら……」 


 少しの時間しか過ごしていないけれど、滅也くんも桃葉ちゃんも大切な友達だ。


 滅也くんは私なんか到底及ばないほどに強いから大丈夫かもしれないけど、桃葉ちゃんは別。


 あの時守りきれなかったことを……私はずっと悔やんでいた。


 大切な人を守れるようになるための力が必要だ。


 強くなれるチャンス……逃すわけにはいかない。


「よしっ!」


 少し迷惑かけちゃうかもしれないけど、滅也くんに今度お願いしてみよう。


 1回だけでも一緒にダンジョンに潜ればもっと強くなれるかもしれない。


 いざという時に力になれるように、頑張ろう。 

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