第8話 上の反応
「F級がB級を助けた? バカも休み休み言いなよ」
探索者の頂点、S級探索者。
その中でも事実上の日本最強と呼ばれている青年、
艶のある金色の髪に整った顔。
ルックスまで隙のない王者の圧に、発言した男は身が竦むのを感じていた。
「この世は才能が全てだ。F級などどうひっくり返ろうが雑魚でしかない。まぁB級も僕からしたらゴミのようなものだけど、F級とは天と地の差がある」
「でも現にこの配信に……」
「そんな映像を信じると? 信じるものはその者の才能のみだ。それ以外は紛い物だよ」
自分の才能のみが至高。他は全て自らの人生を彩るための踏み台でしかない。
そんな汚い考え方が透けて見える程に、桐島は傲慢な態度を貫く。
「こんな芸当は僕のような選ばれた人間にしか出来ない。そうだろう?」
「ええ、滅相もありません」
「分かったらくだらないことを僕の耳に入れるな。僕を怒らせないでくれ」
ただ進言した男は未だ納得がいっていないのか唇を噛み、眉をひそめている。
その男の態度に心底呆れた桐島は、明後日の方向を見つめながら軽くため息をこぼす。
そしてこの重苦しい空間の中に言葉を残した。
「とりあえず様子を見ているといい。すぐに分かるさ。F級はF級でしかないということを」
それ以上桐島は口を開かなかった。
◇
ダンジョン関連の行政を司る役所、ダンジョン省の会議室にて複数の人間が同じテーブルの席についていた。
「ここ、水沢みなみがダンジョンに落ちるシーン。少し変です。まるで何か引っ張られているような、そんな風にも見えます」
「ただ落とし穴が産まれただけでなく、ダンジョン内部の重力に変化があったということですか?」
「そこまでは……なにぶんこのような実例は存在しないため……分かりかねます」
「ふむ……この件は研究者に回すしかないですね」
そこで2人は落とし穴の件の考察を打ち切り、話題は最重要項目、F級探索者の
ここでダンジョン省の代表人物、ダンジョン大臣である
「これだけではな……今までF級が活躍したという例は確認されていない。そいつは本当にF級なのか?」
「ええ。ギルド職員のある男から極秘に情報を得ています。天城滅也、17歳。F級探索者として活動していると」
ダンジョン省の幹部が峰利の問いに答える。
その言葉により室内に少しのざわめきが生まれた。
「真偽を確認するために速やかにコンタクトを取った方が良いのでは?」
「まずはダンジョンの検査を」
「密偵を放つのが先であろうが」
「研究者に見解を伺うべきでは――」
――パン!
散らかった声を鎮めるように、峰利は大きく手を叩く。
「はやるな。この件は慎重になる必要がある。F級が上位の探索者を脅かす可能性があるなんて事実が発覚すれば、我々が持つ利権が危ぶまれるぞ」
その言葉に一同が息を呑む。
ここにいる者全て、その利権の恩恵に預かっていることが如実に現れていた。
峰利は幹部に視線を合わせる。
「おい、こいつのスキルは何だ」
「『身体強化』です。特に珍しくもないありふれたスキルかと」
「……」
峰利は目を瞑って思案する。
F級探索者であり、所有しているスキルもごくごく普通。
そのような者がA級の魔物を倒すことなどあり得るのかと。
その後しばらく考え続けた後、ゆっくりと目を開き、幹部へと言葉を伝える。
「至急各メディアやマスコミに伝えろ。天城滅也に干渉するなと。これは政府の管轄として事にあたる。報道も縮小させろ」
「承りました。ですがDtubeやSNSを規制することは流石に出来ませんが……」
「その程度なら後々どうにでも対処できる。S級探索者を使えばいい」
「なるほど……」
「よし、総員動け! 細かい指示は都度こちらから伝える!」
「「「「はっ!」」」」
峰利の号令を受けて同席していたメンバーは次々に動き出した。
ダンジョンが大きな産業として発展を遂げた現在、それに携わる者達の権力は非常に大きい。
その権力を利用した裏工作を、ダンジョン省の各員が開始した。
数分もせずに部屋の中は大臣ただ1人が残される。
「天城滅也。こいつは早々に消しておいた方が良いかも知れんな」
誰もいない部屋で、ぽつりと峰利は心の声を口に出していた。
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