第4話

その日は仕事が早く終わったので、ヒロの所属する大学へと足を向けた。

アポ無しだけど、あいつは絶対いるはず。

だってチャマも今日ここを訪ねてるんだから。


研究棟は、緑の多いゆったりした敷地内の、いちばん奥まった場所にある。


…中途半端に細く開いたドアの隙間から聞こえてきたのは、俺のよく知る2人の声だった。





増「違うよ、うちは工学系だってば。これは生理学が専門のやつに頼んで手に入れたんだよ。わかる?違いが」

直『んー?俺に理系の何を期待してるの?』

増「だからぁ…呼吸器系に影響が出るんだけどね、マウスの実験では2~3分かかったって。飲めばまず間違いなく致死性だけど、苦しむんだよ」



おいおい、何を物騒なこと言ってるんだ。

カプセルを陽に透かすヒロが、白く見える。それはきっと、着ている白衣のせいだけじゃない。


…おまえそれ、毒物の類か?

そんな穏やかな声で説明することでもないだろうが。



増「あれ?これって何?」

直『あーそれね、元々は果物用のナイフなんだけど、いつも包丁がわりに使っちゃってんだよね。ナイフにしちゃ大きいし、使いやすくてさ」

増「へー…なんかすごい切れ味良さそう」

直『研いでもらったばっかだもん』

増「人でも刺せそう(笑)」

直『あ~もう、刺しちゃえよ。やっちゃえよ』

増「うわぁ、危ない会話」

直『ひっひっひ、そしたら秀ちゃんは永久におまえだけのもんだ!行けヒロ!』

増「あはははは」



引き続き物騒な内容だけど、楽しそうなチャマの声をもっと聞いていたくて、俺はそのまま盗み聞くような形で立ち聞きを続けた。


…しかし、話題はころころ変わり、しだいに曇りがちの内容にシフトしていく。



増「じゃあ、チャマはこのままでいいの?ずっとこのまま、撲たれたり、絞められたり…ひどいこと言われたり…」

直『…ずっとなんて…』

増「痛くないわけ、ないよね?」

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