=side藤=

第3話

それは、言葉にすればひどく簡単なことだった。



俺たちが4人でデビューしてからしばらく後のこと。

レコード会社との契約を打ち切られた。

理由は単純明快、売上が伸びなかったからだ。



ただし俺にだけは、ソロとして残らないかという話が持ちかけられた。

…正直、迷った。

俺に音楽しか生きていく道がないのは自明のことだったが、独りで、というのはまた別の話だったから。



そんな俺の背中を押してくれたのは、他でもない、3人の仲間たちだった。

チャマは言った。



直『藤くん、やりなよ。藤くんの音楽は、どんな形ででも世の中に届けるべきだよ。俺たちのことは心配しないで。何のために学校行ったと思ってんのさ』



ヒロも言った。



増「俺も、大学あぶなく退学になっちゃうとこだったけどさ。今ならまだ戻れるし、もう1回勉強頑張ってみるわ。…おまえのCD出たら、買うから。ライブも絶対行くからさ。だから頑張ってよ、俺たちの分まで」



秀ちゃんの場合は、少し事情が違った。

あと少しで大学も卒業だというところまで来ていた彼は、俺と同じように残るよう言われていたのだ。

ただしそれはドラマーとしてではない。社員としてだ。



升「…なんか、変な巡り合わせだけどなぁ。まぁ、こうなった以上就職先は探さないといけないわけだし。今まで何年か俺を見てきて、そのうえで使いたいと言ってくれてるんだから、ありがたく受けさせてもらうよ」








…それからチャマは、実家の店を引き継いだ。

隣接した倉庫は彼の手によって藤原ミュージアム状態になっていて、日々訪れるファンを喜ばせているらしい。



ヒロは大学に戻って博士課程まで修了した後、助手として研究室に残った。

工学系の何とかかんとかが専門だと言っていたが、さすがに難しすぎて俺にはサッパリわからない。



スタッフとして働く秀ちゃんとは、そう頻繁に顔を合わせるわけではないが、会社に行けばいつでも会える。



“昔のバンド仲間”として、4人の関係性は変わらない。

一堂に会して顔を合わせる機会は、年に数回程度まで減ったが、それでも何も変わらない。



チャマと俺の関係も。



…そう思っていた。








言葉にすれば、ひどく簡単なことだ。

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