第11話
「…ねぇ鈴木さん」
「…何?」
隣の堤くんに話しかけられる。
「鈴木さんは歌わない?」
「…私、ラブギフくらいしか歌聞かないから」
全然知らなくて歌えないわ。
そのラブギフですら、最近あまり聞けていない。
ちょっと前までは髪のお手入れをしている間流していたけど、最近ではその時間を設けていないから、必然的に聞く機会が減ってしまった。
「ラブギフって、」
「鈴木さんラブギフ知ってるの!?」
「え、あ、うん」
堤くんが何かを言いかけていた気がするけど、前から佐倉さんと御崎さんが突撃してきて遮られてしまった。
「すっごい意外!」
「ね!鈴木さんてっきりクラシックばっかり聞いてるのかと…」
「…クラシックなんて聞かないよ」
確か家に何枚かあったと思うけど、それでも私自ら再生したことはないはずだ。
(…パパがたまに聞いているのが耳に入ってくるくらい?)
「中学の友達がラブギフを好きだったから、その影響で私も聞くようになって」
彩愛のことを思い出す。彩愛は鼻歌を歌っちゃうくらいラブギフが好きだった。そして今もまだ好きだろう。
「そうそう!私達、外部の中学に進学した鈴木さんが憧れだったんだよ!」
「あ、ちょっ、」
「ぜひ話聞かせて!」
「な、仲良くやってね!」
「もちろん!」
「何も鈴木さんを取って食おうだなんて思ってないから!」
隣に座っていた堤くんは追いやられ、私を一つ隣に移動させて両隣に佐倉さんと御崎さんが座った。
「あ、私佐倉亜美って言うの、ぜひ亜美って呼んで!」
「私は御崎結愛、結愛でもなんでも、好きに呼んでね」
「じ、自己紹介されなくても、知ってるよ」
そんなにクラスに興味がないと思われていたのだろうか。
少なくとも小学校を入れた約9年間を一緒に過ごしてきたのに…。
「あ、ごめんごめん、そんなつもりなくて、ただ、鈴木さんなんと言うか…」
「教室にいても私達に目もくれない!って感じだったから…」
「…、…私は鈴木千嘉よ。好きに呼んでね」
何の弁解も出来ないくらい私のせいで、ただ私も自己紹介するしかない。
「それで千嘉ちゃん、中学はどうだったの?」
「そうそう、気になる!」
心なしか目を輝かせた2人は私の顔を覗き込んでくる。
「そ、そんな大して話すようなことは…」
「私達ここしか知らないから、外はどんな感じか知りたいの!」
「何でもいいから!ね?」
「…んー、そんなにここと変わらないわ。体育祭と文化祭があるくらいかな」
「体育祭!少女漫画みたい!」
「ね、漫画でしか読んだことないよー、憧れるー」
「そんな大それた物でもないよ…」
でも確かに、楽しかった。みんなでワイワイやって、お祭り騒ぎみたいで。
「…でも…この学校は、少し居づらいね」
なんだか息がつまる。
特別中学校とは変わっていないはずなのに。やっぱりこの学校特有の何かに包まれている気がする。
「…やっぱりそうだよね…」
「私もそう思う…」
「そうよね…」
2人も同意して、外部を体験した私だけが感じていたことではなかったのだと認識した。
「よくわかんないけど、窮屈って言うか」
「目に見えない何かに縛られてる気がするよね」
私達の家を考えたら、それくらいでいいのかもしれないけど…。
2人ともやっぱり家は屈指の財閥で、お嬢様と呼ばれても可笑しくないくらい。
「まぁ、そんなことはいいのよ!…それより私達、千嘉ちゃんに謝りたいことがあって…」
「謝りたいこと?」
亜美ちゃんや結愛ちゃんに、私なにかされたっけ。
「そう、小学校の時のことなんだけど…」
「…」
「千嘉ちゃん小学校の時から周りとちょっと違ったと言うか、何て言うの?こう、お嬢様って感じだったって言うか…」
「それはみんなだって…」
「ううん、全然違ったよ、佇まいって言うか、雰囲気って言うか」
「だから、なかなか近寄りがたくて…」
「そう…」
そんな風に思われていたのか。自分は誰とも違わない、みんなと一緒だと思っていたけど…。
「だからって言い訳にはならないけど、千嘉ちゃんが無視させれるとき、なにも出来なくてごめんなさい」
「ごめんね、千嘉ちゃん…」
2人の手に力がこもったのが視界の端でわかった。
「…別にいいのよ、気にしないで」
2人は当時無視してきたグループの子達ではないし、下手に声をかけたら今度は自分達が同じ目に逢うかもしれないと言う危惧も理解できる。
「中学校に上がったとき、千嘉ちゃんがいなくてすごく後悔したの。あの時、ちゃんと声かけていればよかったって」
「だから高校生になって千嘉ちゃんがいて驚いたし、チャンスだと思ったの!」
「でも結局全然意気地なくて、話しかけるのすごく遅くなっちゃって…」
「…本当にごめんなさい」
「そんな、別に謝らないでよ」
まるで双子のように息が合ってるな…と思っていたら、2人に軽く頭を下げられて慌てる。
「2人の話聞いて、私の態度にも問題があったんだってわかったし」
「千嘉ちゃんは何も悪いことしてないよ!」
「ただ私達に勇気がなかっただけだから!」
けど、謝らせてくれてありがとう!
そう言って笑ってくれて、少し安心する。
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