第7話
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「…ねぇ拓弥くん」
「ん?」
今日の拓弥くんの授業も終わり、拓弥くんが今日使った教材を片付けている途中に話しかける。
呼びかけたら手を止めこちらを見てくれる拓弥くんに、胸がキュンとする。
「私ね、今日クラスメートと連絡先交換したの」
「おぉ、良かったじゃん」
拓弥くんは私が今の学校で小学校の時に嫌な目に遭ったことを知っているから、喜んでくれる。
「…でも私、今更誰とも仲良くなろうって思わなくて」
「んー…」
「卒業まであとちょっとだし」
「そうかぁ…」
なんとなく拓弥くんの方を見れなくて、教材を片付ける振りをして目線をそらす。
「千嘉が誰とも仲良くなりたくない気持ちは理解できるよ」
うちのクラスにもいてさ、と続ける。
「負けん気が強くて、誰とも仲良くなろうとしない女の子がいてさ。中学1年生なんだけどね。あまりにも、針ネズミみたいに周囲に対してトゲを出しまくるからこの前ちょっと話しかけてみたんだよ」
まるで針のように指を立てていたずらっぽく笑う拓弥くん。
「なんで誰とも仲良くならないんだーって。入学してからもうそろそろ2ヶ月で、他のクラスメートたちはもう仲間ができていて、その子だけ1人で行動してんの。まぁいくら学校生活ではコミュニケーションが大事だからって、1人が好きだとかって言うんだったら強制はできないけどさ。だけどその子、僕がそう話しかけたら、泣きそうな顔してさ、人が怖いって言ったんだ」
私の教材を触っていた手が止まる。
「どうやら小学校で、数ヶ月クラスの助詞から無視されてたらしい」
「そう…」
「後にも先にもその数ヶ月だけで、なんでかも分からず突然無視されて、突然終わったらしい」
(まぁ…それは…)
「それは人間不信にもなるよなぁ」
私の思ったことを代弁するかのように、困ったように笑って首の後ろを掻く拓弥くん。
「…その後その子にはなんて言ったの?」
「僕は医者でも魔法使いでもないから今すぐ君の気持ちをどうこうはできないけど、僕と毎日少しでもいいからお話ししよう、って言った。たくさん話したら、ちょっとでも人に対する不安感が和らぐかなって」
だから、明日の放課後からその子と話してくることになったよ。
にこりと笑って私を覗き込む拓弥くんに、ついその女の子に嫉妬してしまう。
(拓弥くんと2人で放課後にお話しなんて…羨ましい…)
その子はきっと拓弥くんを先生としか見てないし、私みたいに邪な考えなんてないの分かってるけど。
「その子と話してる途中で、まるで千嘉みたいだなーって思ったんだよね」
「え、私?」
「そう。小学校の時にクラスメートから無視されてたとか、千嘉も少し人間不信なところあるでしょ?」
「え、ないよ?私には彩愛と友里亜がいるんだから」
中学校からの友達の名前を出すと、拓弥くんは私を微笑ましいものでも見るかのような視線を投げてくる。
(…解せない)
なぜそんな目線が寄せられるのか。
「あの2人は、いい子たちだったね。でも、千嘉から歩みよった訳じゃないだろ?」
「…覚えてない」
嘘でもなんでもなく、本当に覚えていない。
(2人と友達になってから、もう3年近くたつのか)
それじゃあ覚えていないのも仕方がない、と自分に言い訳する。
「2人と仲良くなってからだんだんクラスメートともいい感じに打ち解けられていたけど、それまでは心配してたんだからな」
わしゃわしゃと拓弥くんの手が私の頭を撫でる。
「…ありがとう」
心配をかけていたのは恥ずかしいなぁ…。
「まぁ色々とごちゃごちゃしちゃったけど、千嘉は自分からは人に近づかないよねって事が言いたかったの」
頭から離れる手が寂しい。
「無理しろとは言わないけどさ。そこがその子と似てるなって」
「…うん」
「でも、出来たらクラスメートと仲良くしてほしいなぁ」
返事をしたくなくて黙る。
「千嘉は大学、内部進学を希望でしょ?」
「うん」
中学校は違う所だったが大学はそのままエスカレーターで行く予定で勉強している。
「だったら、学部は違えどこれからあと4年間は同じ場所でみんなと過ごす訳じゃない?」
「でも、外部生だって…」
「いるだろうけど、僅かだろうねぇ。学費も高いし」
「…確かに」
「そうしたら、千嘉はあと4年も1人で過ごすの?」
「それでも別に…」
「友達はちゃんといた方がいいよ。今できた友達は、大人になっても大切な人たちになる。きっと千嘉を支えてくれるよ」
「…わかった」
努力はしてみる。
消え入りそうな声だったけどちゃんと聞き取った拓弥くんは満足そうに頷き、片付けを再開する。
(拓弥くんは、やっぱり平気なんだね)
私は拓弥くんが他の女の子の話をするだけでモヤモヤしてしまうし、ついこの前まで小学生だった女の子にまで嫉妬してしまう。
(拓弥くんは、私が他の男の子と仲良くなっても、気にも留めないんだね…)
当然だ。私は拓弥くんが好きで好きで大好きでたまらないけど、拓弥くんはそうじゃない。拓弥くんは私を好きじゃないから。
涙が溢れそうになるのを唇を噛んで耐え、私も止まっていた手を片付けのために動かす。
分かってはいたけど、拓弥くんと私の想いの差を感じて、辛い。
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