第2話 示談だファイト!

 ここは示談の聖地・ファミレス地団駄!!


 不倫、借金、遺産相続、浮気の発覚!日常に潜むあらゆる人間関係の崩壊を見届ける、まさに修羅場のメッカ!


 今、俺の家族とみかん丸の家族が向かい合い、ファミレスのテーブルを挟んで示談の場に座っている。


■ 赤コーナー:田中家ファミリーチーム!


 俺、田中太郎。40歳、無職、独身、童貞の三冠王。


 推しのYouTuber・みかん丸に全財産をぶっこみ、家庭崩壊を引き起こした張本人。現実ではヒエラルキー最下層だが、スーパーチャレンジチャットでバズり、ネットのコメント欄ではトップスター。だが今、その称号も虚しく、修羅場リングで打ちのめされる寸前。


 その俺を挟んで立ちはだかるのは、悪役レスラーの風格を放つ母・田中和子。


 異名は“ファミレスの暴君”。


 家庭の秩序を拳で支配し、言葉よりもフライパンを振るう女帝。パート帰りのエプロン姿が似合う一方、そのエプロンには無数の戦歴が刻まれている。


「母さん……落ち着いて。ここはファミレスだよ?」


「そうよ。示談の場。だけど示談には説得力が必要なの!」


 それフライパンで示談の説得力増すのやめてくれ!!


 そして父・田中正一。家族の中で唯一の会社員でありながら、その実態は“逃げ足だけは一流”のビビリの権化。


 人間関係は“はい”と“すみません”の二択で成立している男。上司の靴磨きは得意でも、家庭内の立場は靴下。


 会社では「存在感ゼロのエア社員」、家庭では「フライパンの餌食」。


「い、痛い……トイレ……トイレに……」


■ 青コーナー:みかん丸ファミリーチーム!


 対するは推しの母・美咲。


 黒髪をさらりとかき上げ、目を細めてコーヒーをすするその姿は、まさにビューティープロレスラー。


 リングの女神のような立ち振る舞いに、優雅さと余裕の笑みを崩さない。まるで一瞬の隙も見せない華麗なる美の伝道師。そのテクで俺の父を骨抜きに。俺もお世話になりたい。


「この度は、うちの娘が大変お世話になりました。」


「いやいやいやいや!何も世話してないから!!」


 美咲の横には、みかん丸こと咲良。普段は笑顔満開のYouTuberだが、今日は怒りのオーラが見える。


 栗色の髪にみかん色のヘアピン。普段は元気いっぱいの彼女も、今日ばかりは怒りのオーラ全開だ。


「田中さん……どう責任取ってくれるの?」


「本当申し訳ありません」

 

 俺の土下座は空を切った。


■ 第三勢力:ファミレスの仲裁者!


 そして現れたのは、地団駄の名物店員・藤井。まるでレフェリーのような冷静な表情。何度も修羅場を見届けてきたプロの風格。


「それではルールを確認します。」


 藤井が厳かに口を開いた。


「場外乱闘は禁止。フライパンなどの武器の使用は……できればお控えください。」


「“できれば”って何よ!」


 母が不満げにフライパンを握りしめる。


「なお、ラウンドは三回戦。1ラウンドにつき10分の討論を行い、納得のいく結果が出ない場合は次のラウンドに進みます。」


「は?なんで三回戦なの?」


「当店では“示談を焦らず納得できるまで”がモットーです。」


 藤井の説明に、俺は頭を抱えた。いや、どこのファミレスにこんなシステムあるんだよ!


「それでは……」


 藤井が静かに手を上げる。


「第1ラウンド、スタート!!」


 ファミレスの空気がピリッと引き締まった。


 母の目が鋭く光る。美咲は余裕の笑みを浮かべたまま。咲良は眉をひそめ、父は……。


「もうダメだ!!」


 突然、父が手に持った白いタオルを力なく投げる。


「終わりにしよう……こんな戦い……俺には耐えられない……」


 早すぎるタオル投入!!


 しかし、その瞬間——。


「逃げんな下痢! 夢見て食らいついたら腐肉で腹壊してんじゃねえか。次はコイツで焼きを入れてやるよ!」


 バシュッ!!


 父の尻に炸裂するフライパンの衝撃。


「ぎゃああああ!!!」


 母の容赦ない悪役ムーブに、示談バトルは更なる混沌を迎えるのだった。

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