第4章 骨軍団と猫⑤


「さささあッ! どどどどっからでも、かかかかって来なさいよぉ……!」

「ミラ。そんなに怖いのニャら、なんで来たのニャ……」

「ひあぁ!! きゅ、きゅ、急に話しかけないでよッ!!」

「全然、急でも無いのニャン……」


 日はすっかりと落ち、寂寥な墓場を照らすのは夜空に浮かぶ月の光だけ。

 そして、何の因果だろうか。今宵は満月であった。


「むしろ、クロは全然平気そうだな。怖くないのか?」

「ククク、ご主人よ。月夜は猫のテリトリーなのニャ。むしろ、これから始まる大捕り物にワクワクが止まらないのニャ」


 暗闇の中でにやりと笑うと、クロは腕を上げて爪を立てて見せた。

 俺が気絶したシルフィをベッドに寝かせて、今夜墓荒らしを捕まえに行くと言うと、こいつは待ってろという言葉も聞かずに墓場までついてきた。


「祭りではすっかりイモコに持っていかれたからニャ。ここで卑劣な墓荒らしをひっ捕らえれば、クロは一躍村のヒーローニャ。正義の大魔導士の名が知れ渡るのニャ。ククク」


 つくづく俺のパーティーには、動機が不純な奴しかいないようだ。


「そういや、イモコ先輩と言えば。あの二人、一体どこまで走っていったんだよ……」


 結局、夜まで待ったのに先輩も所長も帰ってこなかった。

 もはや二人とも帝都まで走っていったんじゃなかろうか。


「そうだクロ。お前、後でちょろっと【テレポート】して、帝都の魔生物研究所に所長が帰っていないか見てきてくれよ」

「クロを便利な馬車扱いするんじゃないのニャ! そもそも、そんな遠距離は飛べないし、転移できるのは一度行ったことがある場所だけなのニャ!」


 むう。神魔法も流石に、そこまで万能では無いということか。


「そもそも大丈夫だニャ。この大魔導士がついてるんだから、なんの心配もいらないのニャ」

「そして毎回、お前のその根拠の無い自信はどこから来るんだよ」

「で、でもクロちゃんってお人形さんみたいにかわいいですよね! お目々なんて宝石みたいだし。私と同年代でこんなキレイな子がいるなんて、ちょっと嫉妬しちゃうなぁ」

「ティアンヌといったニャ? ユーはなかなかに見どころのある人材のようだニャ。中魔導士くらいには取り立ててやってもいいのニャン」


 なんだよその役職。


「ちょちょちょっと皆! そそそそんな騒がしくしてると、こっちの居所がばれるじゃないのよ!」

「いや、一番騒がしいのはミラなのニャ……」


 俺達は今、墓場の入口が見渡せる位置に生い茂る林の影に、四人揃って身を潜めていた。

 怪しい人物が墓場に現れたら、すぐに走っていって捕まえにいける距離だ。


 そして、見張りに立ってから三時間以上は経過しただろうか。

 それまで不審人物どころか動物の一匹すら現れず、墓場はいたって静かなものだったが、


「あっ……。み、皆さん見てください……! あそこに誰かいませんか……?」


 抑えた声でティアンヌが呟き、墓場の奥を指した。

 全員、そちらの方角に目を凝らす。


 確かに……いる! ここからではその正体は定かでは無い。

 だが間違いなく、一人の人間が怪しげな動きで墓場をウロウロとしていた。


「あれが……っ! 父さんと母さんの仇……っ! うおおーーっ!!」 

「あ、待て! ティアンヌ!」


 それが人影であることを確信すると、ティアンヌは逆上して林を飛び出していってしまった。俺達も慌てて後を追いかける。

 人影との距離が縮まっていくにつれて、その輪郭が露わになっていった。

 男だ。それもかなり恰幅の良い体格をしている。

 そして、その両手にはなんだろう、ダウジングに使う棒のような物が握られていた。


 月明りが男の顔を照らす。あれは……!


「ティアンヌ待ってくれ! そいつはっ!」

「あの世で私の両親に詫びろぉっ! 天誅ーーーっ!!」

「ぬっ、なんだお嬢ちゃん!? うお、痛てててっ!」


 ティアンヌは鬼神の如き気迫で、山男の横っ面から竹箒の連打を叩き込んだ。

 というかこの山男は……。


「あぁーっ! 昼間の変態髭親父だニャ!!」

「こら、クロよ。デイビス所長さんだろ」


 デイビスはダウジング棒を投げ出して、腕で必死に頭を庇っていた。


「痛だだっ! お、おや皆、痛だっ! ちょ、ちょっとこのお嬢ちゃんを止めてくれないか!?」

「どうどう、ティアンヌ。一旦待ってくれ、俺達の知り合いなんだ」


 俺は、無尽蔵に竹箒の一撃を繰り出すティアンヌの腕を掴んで、所長から引きはがした。

 ティアンヌは引きはがされてなお、低い唸りを上げて飛びかかろうしている。

 狂犬かお前は。


「デイビス、心底見損なったわよ。あんたがどんなに常識の欠落した奴でも、悪事に手を染めるような真似はしないと思っていたのに。墓荒らしだなんて」

「は、墓荒らし!? 何を言ってるんだミラよ、私はそんな事しとらんぞ!?」

「静粛に──諸君、ここにクロクロ裁判を開廷するのニャ。判決は死刑だニャ。異議のある者は?」

「異議ないわ」

「異議ありませんっ! 地獄に落ちろっ! 【エンチャント・デス】!!」


 竹箒は、およそ竹箒が纏うべきではない、禍々しいオーラに包まれた。

 決して白は認めない。それがクロクロ裁判なのだ。


「い、異議あり! 異議あり! 待つんだ皆、話を聞こうじゃないか!!」


 そこに颯爽と現れる敏腕弁護士、つまり俺。


「デイビス所長。教えてください、こんな夜の墓場で一体何をしてたんですか?」

──あのぅ。


「ああ。あの後、イモコを撒いた私は、あいつに見つからないように隠れていたんだがな。夜になったし、ほとぼりも冷めた頃だろうと思って、村の宿に向かっていたところ……ビビッっと来たのだよ!」

「ビビッっと来たって、何が?」

「凄まじい魔生物反応だよ。私がこれまで感じたことも無いレベルのね。その反応を追って、ここに辿り着いたという訳なんだよ。諸君、いるぞ。この近くにとんでもない大物がな」

──あの、すみません。


「ククク、あながちただの変態親父でも無いようだニャ。そら、お前の探している大物はここだニャ」

「いやぁ、クロちゃんとはまた違うんだよ。もっと禍々しくて、強大な感じというか」

「ムッ、何ニャ。それじゃまるで、クロが禍々しくも強大でも無いと言ってるように聞こえるのニャ!」

──あのってば。


「うーむ、そうだねぇ。クロちゃんの反応は何というか。とっても。ポップな感じ?」

「ポポポ、ポップとは何ニャッ!? 法廷侮辱罪! 死刑!! ゆけ、ティアンヌゥ!!」

「その首、貰い受けますっ」

──すみませーん。



「うっさいわね!! さっきから、ぶつぶつぶつぶつ何なのよ!! 見たら分かるでしょ!! こっちは今いそが」



 ブちぎれたミラさんが隣を振り向き、遂に吠えた。そして固まった。


 そこに立っていた者の年齢は、果たして不明だった。

 若いのか、年老いているのか、全く判断がつかない。なんなら性別も不明だ。

 分かることはたった二つ。異常に細いこと、そして異常に白いこと。


 

 だって、そいつは骨だから。


「あ、やっと気づいてくれた。こんばんわ」

「嫌ァァァーーーーッッ!! お化けェェーーーーッッ!!」


 絶叫を上げて、女神はその場で卒倒した。


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