第4章 骨軍団と猫④


「ちょっとティアンヌ。それ……!」


 どれくらいの間、黙祷を捧げていただろうか。

 不意に俺の隣で、ミラさんが小さく驚きの声を上げた。


 目を開けて横を見てみると、ティアンヌは首から下げたネックレスの先端を手に持ち、顔の前で捧げるようにして祈っていた。

 その先端に付いているのは、淡く光を放つ白い六角柱の水晶だった。


「それ、凄まじい大地の魔力を感じるわ。間違いなく特一級品の魔石よ」


 ミラさんはその光る水晶を、食い入るようにして見つめている。

 それを受けてティアンヌも目を開けると、ふっと悲しげに微笑んだ。


「……私の父と母は二人共、冒険者でした。父は村の誰よりも強い剣士で、母は誰よりも賢い魔術師。幼い私の憧れでした……いえ、それは今でも変わりませんね。八年前、魔王軍との戦いに旅立つ前に、私の首に掛けてくれたのが、この『大地の結晶』です。二人が冒険で見つけた中でも、最も貴重なお宝なんだそうです。もちろん──」


 ティアンヌの悲しげな顔が、少しだけ緩んだ気がした。


「私にとっても、一番の宝物です」





 墓参りを済ませると、俺達は墓場の入口まで戻ってきた。

 いつまでもシルフィを藁の上に放っておくわけにもいかないしな。


「皆さん、今日は本当に申し訳ありませんでした。……それに、ありがとうございました」


 ティアンヌはこちらに向き直ると、深く頭を下げた。

 そして、次に頭が上がったとき、その両目には固い決意が満ちていた。


「奴らは今晩も、この墓場にやって来るでしょう。私は決めました。今日こそは夜通し張り込んででも奴らの正体を暴いて、捕まえてみせます……!」


 そう言って、箒の柄を強く握り締める。

 普通ならば止めるところだ。

 年端もいかない少女が一人で、正体不明の墓荒らしに立ち向かうなど。


 だが、彼女の顔を見れば分かる。


「そんな無茶はやめろって言っても、どうせ聞いてくれないんだろ?」

「すみません……私はもう、決めました」

「分かったよ。でもな、何も一人で立ち向かうことないだろう?」

「えっ?」


 俺は腰に手を当てて、今しがた後にした丘を振り返った。


「相手は正体も分からないんだぞ。だったらせめて、お前の父さんや母さんのように頼りになる冒険者が一緒だったら、心強いと思わないか?」

「そうよ! そんな罰当たり、私の目が白い内はのさばらせておけないわ! 木の上に釣り下げてやるんだから!!」

「コータローさん……、ミラさん……」


 口に手を当てて瞳を潤ませるティアンヌに向かって、俺は右手を差し出し、小指をピンと立てた。


「ほら、ティアンヌも」

「え、はっ、はいっ!」


 ティアンヌも慌てて右手の小指を立てる。俺は自分の小指をそこに絡ませた。


「これはな、俺の故郷に伝わる契約の儀式だ。決して破ってはいけない、大切な約束を結ぶときにこうするんだよ」


 小指同士で強く握りあい、軽く上下に振る。



「約束するぜ、ティアンヌ。そんなクソ野郎は俺達が必ずぼこぼこにしてやる。たとえ、どんな奴が相手だとしてもな」



 そう。たとえ、どんな奴が相手だとしても。


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