16.エレナス邸(1)[入口の先×伏兵=……イラッ]

戦闘パート、面白いけど大変……(燃え尽き)

――――――――――――――――――


――――コツ、コツ、コツ……



「――すぅぅーー、ふぅぅーーーーっ」


 湿っぽくて重たい空気に包まれた石の螺旋階段。そこを今、カラミディアを先頭に『私』とレンはゆっくりと上を目指していた。


「――なあサク。その木刀持つ、雰囲気? ……なんかすごいサマに感じるんだけど、もしかして『元ヤン』?」


「んぁ?」


 首の後ろで木刀を担ぎ、腕を『ダラ~ン』と垂らした私に、最後尾のレンがぬけぬけとそんな軽口を叩いてきた。


「……おい、いきなり『木刀が似合う=元ヤン』ってどんな偏見だ? 藪から暴論ってレベルじゃないぞ。……お前はあれか? 手癖足癖が悪いヤツは不良認定なのか? そうやって、ちょっと気の強い女はみんなヤンキー括りにするのか? ツンデレ属性はみんな番長か? 『タイガー』ディスってるのか??」


「おぉ……思ったこと言っただけでめっちゃ言うじゃん、ごめんて。……あとなに? 『タイガー』って?」


 レンの茶々に対して適当な返事をしながら、私はぼんやりと『前世』の記憶をたぐっていた。


「――持ち慣れてるのは……たぶん、『前の時』の影響だろうな。ジジイの道場で色んなもん振ったからさ。木刀、十手、竹棒……あと自作のトンファーにおっもい模造刀とか……チャンバラ感覚でな」


「……どんなご家庭??」


 そこで私は言葉を区切り、


「すぅーー、ふっ~……。道場でぐーたらしてると、『弛んでるぞ!』っつってぼうとか木刀振ってくんだよあのジジイ……今思うと通報案件だろう絶対……。んで、その相手の過程で振り回したのを覚えてる。……まあ、腹いせにお気にの『模造刀』を骨董屋に売ってガチ喧嘩したけどな。今となっちゃいい思い出でだな! なはははは!」


「……悪魔的発想!」(道場でぐーたらって、どんな女子だよ……)


 レンのツッコミを無視して、私は思い出した範囲を素直に答える。

 そんな折――ふわりと階段の上から風が吹き込んできた。鼻につくニオイと、地下特有のひんやりとした空気……どうやら出口が近いらしい。


 地下ここから上――『エレナス邸』という本館を抜け、正面玄関付近にあるらしい『転移墓標(?)』ってのを使って脱出する――それが、カラミディアに聞かされたこれからの予定らしい。


 それから、先のこと――私とレンの『今後』については、カラミディアも一緒に考えてくれるという。


(この世界っていいヤツは損しそうだけど……。中途半端に聞いた話、カラミディアは自称『ボッチ』っぽいから大丈夫か)

(……いや、実際にはありがたいんだけどさ。この世界の常識も事情もいまいちピンときてない状況だし。ガキの二人旅とかハードプレイが過ぎるし……。もういっそ、養ってもらう気で付いてくかなぁ! むしろ、どうぞよろしくされますっていう姿勢で! ……もちろん、めんどくない範囲で手伝いはするぞ! それくらいの善意も良識もあるっ――!!)


「――サクってさぁ、もしかして『前世』のことを覚えてたりするのか?」


 私がなっがいヒモ生活の妄想に浸っていると、レンからまた質問が飛んでくる。


いいやんーにぁ、ぜんぜん。道場でのちょっとした生活とか、だるい強制朝練の記憶くらいだな。それ以外はさっぱりだ……。お前の方はどうなんだ?」


「ホント、びっくりするくらいな~んにも。両親のことも、生活も。……でも、強いて言うなら――」


「言うなら?」


「――『テレビ』」


「は? テレビぃ?」


「そっ。ド深夜と早朝に視てたやつ。なぜかそれだけ薄っすらと覚えてる。まあ内容が……ドッロドロの恋愛アニメと特撮ヒーローものだけ。内容も飛び飛びだし……」


「……お前、六歳にして夜型人間だったのか? ガキのくせして『オタカス』か?」


「ひどい言い方するなぁ。……たぶん違う、と思う……おそらく。…………いや、どうかなぁ……オタカスはやだなぁ~……」


 レンが軽く頭を抱えてうなる、そんなタイミングで――先頭を進んでいたカラミディアが足を止めて、半身だけこちらに振り返る。先を覗くと、石壁で行き止まりになっていた。


「ここが出入り口のはずだ。記憶が曖昧で確証はないが、たしか左の壁が開いたな……。だからどこかに、開けるための『仕掛け』があるはずだ」


「……なんで内側に仕掛け? 工事費ケチった嫌がらせか?」


「――それは、脱走者を欺き、時間を稼ぐためだと読んだことがある。出口で迷わせ、その間に外で兵を整える……たしか、そんな目的らしい。……とはいえ、生者のいない今となっては、形骸化した構造に過ぎないがな」


「はぁ~、手間のかかる造りだな……」


(ここ閉鎖空間だけど、魔法的な通信手段でもあったのか?)


 カラミディアが壁を探って仕掛けを調べているあいだ、私は反対側の壁にもたれながら、階段を上ってから続いていた 『調』に意識を向けた。


(なんか、さっきから体の調子が変だぞ……?)



――――ドクッ、ドクッ、ドクッ――



 心臓の鼓動がやけに耳に響く。……妙に落ち着かない。慣れない、嫌な感覚だ。


「すぅーー、ふぅぅーーーー……」


 いつもの『深呼吸ルーティーン』で落ち着かせようとするが、『体の方』にはまったく効いてくれない。


(……もしかして、自分の『体』じゃないからルーティンが効かないのか? だとしたらダルいな……)


「サク、どうした?」


 顔を覗き込んできたレンが問いかけてくる。


「ん? あー、なんでも……いや、あるな。……なんかこう、心臓が嫌にバクバクして落ち着かないんだよ。『緊張』って感じではないし……。はぁ~、ムズムズして落ち着かん、って感じ」


 最初は誤魔化すつもりだったが、途中で思い直して口にした。


(――こういうのは黙ってるとロクな展開にならんし、言って潰しておくのが『フラグ回避』の鉄則だろうな)


「……なんか以外。サクって、どんな時でも平常運転っていうか、動じない印象あったわ」


 レンがカラミディアに倣って石壁を小突いたり押したりしながら言う。


「いや、その印象で合ってるぞ。現に私も、この慣れない感覚に戸惑ってるしな。……あーでも、この世界って死がそこら中に転がってるらしいから、無意識にビビってるのかもな。……つまり私は、か弱い乙女だった、ってことだ(シュッシュッ)」


「……か弱い乙女は木刀の素振りなんてしないと思う……」


「か弱い乙女(武闘派)なんだよ」


 レンの冷めたツッコミに、私は堂々と胸を張って返す。……うん、心臓の鼓動も少し落ち着いて感じるし、結果オーライ!


「さいですか。……にしても、仕掛けが見つからないなぁ……よしっ」


 気の抜けた声でレンが気合を入れ直すと――カラミディアを追い越して、出口があるらしい壁の前で立ち止まる。


「カーラさん。この壁の向こうが外なんですよね?」


 レンが壁をペチペチと叩きながら彼女に聞いた。


「正確には『廊下』だな。だが見張りがいる可能せ――



[※【理想ノ僕】を任意発動]

 ⇒一時的に、『パンチ力』を激化補正



「すぅー……、ちぇりおぉぉぉっーーー!!(パンチ!)」


(ちぇりお?? ――っておぃ!)



――――ドゴォォォォ!



「うぉっぶねぇっ!!(瓦礫を避け)――ぃたあ!」(『また』これか!?)


「なッ――!?」


 何を思ってか、レンは拳を振り上げると、そのままの勢いで壁をぶち破ってしまった。

 こっちに飛び散る瓦礫をギリギリで避けるが、細かい破片をモロに受けてしまう。


(……レンのやつ、『騎士の時』みたく乙女の肌にアザ作りやがって、後でしばくッ!)


 一方のカラミディアは、被弾には一切動じず壁をぶち抜くレンの行動を驚いた表情で眺めていた。

 ……その直後、両目に『白い靄』がかかるのを、私は見逃さなかった。


あっやばいあっべッ」


 殴った本人は、勢い余って崩れた壁の向こうへ転がり出る。


「レンッ!!――」


 たぶん滅多に感情を荒げないカラミディアが、はじめて耳にする大声を上げた。


「あ、すんません! 手早くショトカしよ――

「――下がれッ!!」



――――ジュリュンッ――ズヂュッッ!



 彼女が『警告』した刹那――横から、風を裂く音とともにがレンの首筋を襲った。



[リンッ――詳細判明、【戦技】〈裂鎖の投刃〉を開示します]


[〈裂鎖の投刃〉:黒い風を纏った槍を投擲し、刺突後に鎖で即座に引き寄せる。盾装備の時、引き寄せた後に殴打で抜き飛ばす]



「――ゔッ!!? ……ぶぉ゛……ッッ!!」


「……ぁ?」



――――ドクッ、ドクッ、ドクッドクッドクッドクッドクッドクッッ――!!



 ――石突に鎖が付いた鉄の短槍。それが、壁の陰からレンの首に突き刺さり、血がスプリンクラーのように飛び散り私の顔を濡らす。

 

 ――投槍の勢いで首が不自然に折れ曲がり、『黒いモヤ』が周囲の肉が切り刻んでいる。

 

 ――空気の代わりに泡の噴き出すこもった音が聞こえ、その光景と血の生暖かさに、心臓の鼓動が冷静な思考と反比例して暴れ狂う。



――――ッジャリン!



「ごぉ゛……――ぉ゛ッッ!!」


 槍が刺さると一拍の間もなく鎖が張られ、レンの小さな体が勢いよく引きずられていった。



――――ドクッドクッドクッドクッドクッズキッドクッ――



[【明鏡止水】を任意発動]



「――――ッ!!」


 目の前で『親しい存在』が唐突に傷つけられた――その現実に、思考が不覚にも一瞬、崩れかけた。けれど私はそれを『技能』の力で無理やり押し戻す。……心臓の鼓動は、いまだ地団太を踏んで落ち着かない。鬱陶しいっ。


 思考を繋ぎ止められたのは、不幸中の幸いにもアザが『ズキリッ』と痛んだおかげだった。その痛みを合図に、私は迷いなく『技能』を発動し、レンを追おうと壁穴へ踏み出した。


「――――ッ。ちっ! レンを返しやが――ぐぇ!!」


 ――が、踏み出した直後、後ろから伸びてきた手が私の襟首をつかみ、容赦ない力で引き戻す。


「カラミディアっ! なにす――――(ジャキンッキンッ!!)――ッ!?」


 ――刹那。私が飛び出そうとした穴の『上から』――地面に両手の短剣を突き立てた一体の『鎧騎士』が落ちてきた。


(『上』に張りついて待ち伏せしてたのか!? ヤモリかよっ!)



――――グギュッ! メキメキッ、パキィッ!!



 引き戻された直後、すぐ横で乾いた音と骨が軋む嫌な音が重なって響く。そして、カラミディアの鋭い声が飛んだ。


「サクッ! わたしの後ろにつけ! ――ふぅッ!!」


 彼女の気迫を込めた渾身の一撃――『巨大な右の黒腕』が穴の枠をぶち抜いて騎士諸共を殴り飛ばした。



――――バゴゴゴォォォ!!!



[〈竜化(右腕)〉:右腕のみを竜と化す。任意の大きさまで巨大化させられる]



(うぉっ、『竜の腕』カッコよっ! 生で見るとド迫力だな!)


「――出るぞっ!」


「ああ! ――っ!!」


 広がった穴をカラミディアに続いて飛び出した私は――即座に右へと舵を切った。


「――っ! サクっ、一人で――

「カラミディア! 騎士の弱点っ頼むッ!」


 彼女の制止を、私は叫ぶ声でかき消す。

 廊下の右奥――二体のボロ騎士が倒れるレンの『黒衣を避ける』ようにして、晒した手を切り落とし、頭部を中盾で何度も殴り潰しているところだった。


(――ぶちのめす)


「(ガギィ)っく! ――『左腕』以外は生身だ! 痛みは感じず強靭っ、個体によっては魔術、呪術を使ってくるっ! 燃やすか頭部を潰せッ!」


 背後から彼女の声と、交戦の始まった衝突音が聞こえた。……さっきの騎士を倒しきれなかったのだろうと察する。



[【明鏡止水】を任意発動]



(――――独り。実質初戦闘。動悸はうるさくて激しいまま。使える手札多すぎ。デカい騎士が二体。中盾と短い槍。長剣持ち。剥き出しの顔がキモい――)


 私は思考を切り替え、状況と使える手札を即座に確認する。


(――戦略は論外。非常時に鈍るんだからするだけ損っ!ガンガンいこうぜ一択!)

(とりあえず……今使える『技能』片っ端から発動しろっ(願望))



[【不撓ノ肉体】を任意発動]

[【不屈ノ精神】を任意発動]

[【隠密】を任意発動]

[【夜ヲ纏ウ者】を任意発動]

 ⇒〈暗視夜行〉を任意発動

 ⇒〈暗隠夜行〉を任意発動

 ⇒〈暗闘〉を任意発動

[リンッ――状態異常[冷静]を検出]

[【刀心桜花】を任意発動]


[【刀心桜花】:多能技能。刀剣類装備時、全能力上昇補正。『戦闘時』のみ任意発動。戦闘経過時間に応じて、全能力が断続微上昇。戦闘終了時、上昇値は元に戻る]



(――あ、やけくそ気味に思ったらホントに発動した)


 体がやたらと軽い。視界の光度が増し、空間に対する感覚がぐーんと上がった、そんな気がする全能感! ……ショトカできたのか技能お前ら



――――ガシャンッ



 よくある、脳内の一秒を数十秒まで引き延ばしたような思考タイムを終え、あと数歩というところで――ようやく長剣を構えた騎士が私に気づく。……傍らの騎士は今だ殴り続けているが、いつの間にかレンの頭に『黒いヘルメット』が被さっていた。


(まだ生きてる。ならまずは――騎士から引き離すか)



[【自己暗示】を任意発動]

 ⇒『動悸を身体能力の活性に利用』

 ⇒『怒り、緊張を集中力に変換』



(――――――――)


 視界が澄み渡り、音が遠のいていく――妙に静かで、冴えた感覚。

 怒りや迷いといった感情はノイズだ。判断を鈍らせ、痛いしっぺ返しを受ける。……この『体』になって感情の起伏は激しくなったが、その代わりに『即抑える』ことも容易にできるようになった。……『技能』って便利だなぁ。



――――パンッ!(柏手)



「『摩多羅門またらもん』」


 木刀を少し放って柏手を打ち、素早く逆手で掴む。瞬間、私と騎士たちの間、そして騎士の奥に――高さ二メートルほどの『鉄門』の出入り口が現れる。


(視界を遮って――強襲ゴー!)



――――ジィギィィッー!!(剣先貫通)



 ――と思ったら、普通に鉄門から剣が突き出してきた、まる。


(はいはい知ってました~。ラスダンモブだから鉄でも紙みたいに切れると思ってました~~。……ちッ!)


 予定変更。私は潜るつもりだった『門』をハイスペックな体で飛び越える。


(視界を遮った今、『陰キャ系』の技能が効くはずだよな?)



[【隠密】:任意発動。自身の『気配』を限りなく感知されにくくする]


[〈暗隠夜行〉:『夜の間』のみ任意発動。広範囲の『気配』を『把握』し、『自身の気配』を薄めることができる]



 ――その読みは的中していた。

『剣騎士』と『盾騎士』の傍に着地したが、私の存在に気付いた様子はなかった……レン以外は。……上位互換持ちズルぅ。

 私は騎士が盾を振り上げたタイミングで、レンの上着フードを掴んで引きずる。バレる前にここから抜け出したいから。



――――ッグチャッ!!



『――痛ってェ~~ッッッ!』


 ヘルメット越しに、レンのくぐもった叫び声が響く。

 ……やっちまった。急いでいて、引っ張る方向を考えてなかった。振り下ろされた盾が、縦に引いたせいで両足にヒットしたっぽい。片方は黒煤義足だが、もう片方の足からは鈍い潰れた音が……痛いやつだなぁ。すまん。



――――ガシャッ(サクに視線)



「――ってバレたー! レンのせいだぞっ、『あけッ』!!」


 反射的に叫び、『門』を開ける。出口の先が『壁穴の方角』になってるのを確認し、私は軽いレンを引っ張って潜り抜けた。……直前に、後ろから風を殴ったような圧を感じたが、無視。


 潜った先――奥の空間では、カラミディアが『二体』に増えた騎士と交戦している姿が見えた。どうやら、最初に見えた以上の数がいたらしい。……いや、まだ来る可能性もあるな。


(……援軍は、期待できそうにないか)


「ふぅ~。レン、怪我は?」


「ぃって~……もう治った。……それより、『抜歯』って抵抗が流れてたんだけど。不名誉過ぎだわ!」


『両足』で立ち上がったレンが、メットを黒い球体に変えながらそんな緩い感想をぼやく。


(こいつ、私並みにタフな思考回路をしているな。それか鈍感……いや、たぶん両方か)

(まあでも、二対二は理想的だな。……その前に、いったん足止めしとくか)


 私は歩み寄る鎧騎士――その背後に残したレンの『血溜まり』の操り、奴らを拘束してみた。……まあ、十秒でも止められれば御の字だけどな。


「レン。ちょっと耳貸せ――」


 そう言って、私は早口に戦闘に関する要点を伝えた。




――――――――――――――――――




――――ポロンッ



[【名前】灰風の守衛騎士(盾・槍)


【種族】人間 (深淵)・亡者


【レベル】81


【状態異常】深淵/欠損


【属性】深淵・深風・物理


 ――――

 ――


【戦技】

・〈裂鎖の投刃〉

・〈???〉]



[【名前】灰風の守衛騎士(長剣)


【種族】人間 (深淵)・亡者


【レベル】83


【状態異常】深淵/欠損


【属性】深淵・物理


 ――――

 ――


【戦技】

・〈???〉]



「――わかったか? わかったな。わかんなくてもノリやれ」


「は~。わかったような、そうでないような……まぁ、やってみる」


 相手を『視ながら』、サクの早口講義を何とか聞き終える。……言われた内容自体は単純だけど、果たして『俺』に出来るだろうか? ……あと『敵の表示』、どこ視ていいかよく分からん。


「難しく考えるな。要は『力むな』ってこと。動揺するな、感情に流されるな、ってな。……あくまで私の経験則だけど」


「めっちゃ曖昧。……でも、わかった。チャンスあったら試してみる」


 ――そうこうしている間に、血で縛っていた騎士たちが、拘束を力任せに引きちぎろうとしていた。


「十秒以上はもつのか……。よし、私が『剣』を相手するから、お前は『盾』な?」


「え? ふたりで一体ずつ潰せばよくね?」


「素人の連携とか怖くて無理だ。それに正直、『バフ盛った体』に全然慣れてなくてな、それが心配なんだ……。あ、もし私が『』したら直ぐに助けろよ? 私、紙装甲だからな」


「――それは任せてくれ。死んでも助ける(イケボ)」


「……十歳児に言われても全然ときめかねぇ~」


「辛辣ぅ――っしッぎいぃぃぃ!!?」(マジ耳死んだぁぁ!!)


「……ふざけ過ぎたな。じゃあ、がんばれ男の子! ――デカい奴が強いと思うなよコラァッ!」


 くだらん雑談でよそ見している隙に、俺の顔面めがけて槍が超スピードでぶっ飛んできた。それを、『何となくの気配』で避けようとして――結果避けきれず、右耳が根元から抉られてしまう。……いっつもワンテンポ遅れるなぁ俺!


 サクはというと、俺が被弾したのを見るや、拘束を抜けた『剣騎士』に突撃。何やら私怨を叫びながら駆けていった。……あの人のメンタルどうなってんだろう?



――――ジュリ゛ッリ゛ッリ゛ッ――ダンッ!!



 短槍が『ジャッリ』っと回収されたと同時、『盾騎士』が前進――接近戦に入ったサクへと迫っていく。


「――あっ、もう戦闘始まってんのか!?」(急展開すぎて出遅れた!)


 考えるよりも先に体が動く。耳の痛みも忘れて、俺は傍らの『黒煤』を掴み――『盾騎士』に向けて思いっきり



[リンッ――【暁天ニ呵ウ鬼】を発動]

 ⇒〈投擲術・破砕〉を発動。投擲物に[激突性][貫通]付与



(――殺人ドッチボールをくらぇオラァ!!)



――――(ピカッ)ガッッ、ズィッッンンンッーー!!!! ――ドズゥッッンン!!



[リンッ――詳細判明、【戦技】〈遠投逸らし〉を開示します]


[〈遠投逸らし〉:投擲物に対し、タイミングを合わせることで衝撃を逸らす技。確率で、衝撃を無効化する]



 ボロボロの廊下に鳴り響く轟音。『盾騎士』は、俺の投げる動作に気づくとその場で立ち止まり、投擲した『黒煤』を――『光った盾』で見事に逸らしてみせたのだ。……職人芸かよ。

 煤玉はそのまま後方の壁にめり込み、視界から消えてしまう。


「は、逸れた……?」(いやいやッ、戦技アレって俺のアンチじゃん!)


「――おいレン! 来てるっ! 二体目来てるッ、無理無理無理無理無理ぃ~~!! 作戦通りにやれーーッ!!!」


「いや作戦なんてなかったよ!?」(――くっそ、使える『技能』全部付けっ!)



[【不撓ノ肉体】を任意発動]

[【不屈ノ精神】を任意発動]

[【暁天ニ呵ウ鬼】を任意発動]

 ⇒〈羅針眼〉を任意発動

 ⇒〈隠密幽鬼〉を任意発動

 ⇒〈闘争意識〉を任意発動

[リンッ――状態異常[狂化]を検出

[リンッ――状態異常[鈍化(痛覚)]を検出

[【下剋上】を任意発動]

 ⇒〈怪力乱神〉を任意発動

 ⇒〈不撓不屈〉を任意発動

 ⇒〈堅忍不抜〉を任意発動


[リンッ――〈鈍化抵抗〉を得ました]

[リンッ――〈鈍化抵抗〉が強くなりました]

[リンッ――〈鈍化抵抗〉が強くなりました]

[リンッ――〈成長(痛)抵抗〉を得ました]

[リンッ――〈成長(痛)抵抗〉が強くなりました]

 ――――

 ――



(いや、多すぎ多すぎぃ多すぎッ! ……もう全部無視っ!)


 遅ればせながら、俺はサクに言われた方法で『技能』を発動させ――『表示』をスルーしながら走り出す。

 だが、その時にはもう『剣騎士』と交戦中のサクに――右から『盾騎士』の槍が迫っていた。


「サクッ!!」



[※【明鏡止水】を任意発動]



「――――ッ。すぅぅーー、――っ」


 鉾先が襲いかかる寸前、サクは『落ち着き払った』動きで身を引き、冷静に回避した。

 さらに、盾と伸ばした腕の僅かな隙間、そこから覗く右肩の『継ぎ目』へ正確に――『捩じる』ように木刀を突き込んだ。



――――スィーーッッ、ゴキ゛ュゥッ!!



 骨がねじ上げられ、関節が外れる鈍い音が響く。『盾騎士』の腕が弛緩し、短槍がスルリと手から滑り落ちた。


「え?」



――――ガッシャッ!(構え)



 続けて、正面の騎士が長剣を『光る両手』で引き絞る。そして――一瞬だけ腕の動きが『霞んだ』。



[リンッ――詳細判明、【戦技】〈三連突き〉を開示します]


[〈三連突き〉:剣を両手で構え、高速で放つ三連の突き]



「――――(冷静な眼差し)」


 だがサクは――それすらも驚異的な反応速度で捌いてみせた。

 ――一突き目。左手で木刀を引き戻し、『柄頭』で突きの軌道を逸らす。

 

 ――二突き目。すり足で距離を詰め、木刀の刀身で受け止めつつ自身は僅かに後退――最小限の衝撃に殺し、耐えた。

 

 ――最後の三突き目。『切っ先』』を握り『柄』を支え、軌道上に木刀を置く――剣先はその表面に沿って滑り、左に逸れていく。


「――――ッ」


 剣身を滑らせながら、サクは木刀の『切っ先』を相手に向ける。そして――



――――――ッカ――ブォオ゛オ゛オ゛オ゛ンーーッ!! ――ッガッガンッッ!!



 ――木刀の『重い柄』が勢いよく『弾け』、騎士二体の顔面へ横一閃に振り抜かれた。



[【刀心桜花】を発動]

 ⇒〈居合絶刀〉を任意発動

 ⇒〈月華美刃〉を発動(抜刀回数:1)


[〈居合絶刀〉:刀剣類装備時のみ発動可能。任意で『』による攻撃時、『斬撃威力』『精密動作』激化補正。使用後、一定時間耐久力、抵抗力低下補正]


[〈月華美刃〉:刀剣類装備時のみ発動可能。『』した回数が蓄積される。蓄積数に応じて、任意の『一撃』に『斬撃範囲』『斬撃威力』上昇~激化補正。筋力、耐久力上昇補正。(抜刀回数:1↑)]



「――ふんっ。これが才能の差だ、デカいのッ(ドヤ顔)!」


 ――鋭い眼光から一転。サクは『してやったり』な得意顔を浮かべ笑った。


「え、えぇ~~!!?」


(……なにアレ! なにこの人!!『戦時中』の人じゃん!? それかもうファンタジー世界の住人だろう絶対ッ!?)

(ってか――ギャップが凄すぎて惚れるわぁぁあああああ!! くっそぉかっけぇぇええええーーーー!!!!)




――――――――――――――――――


◇レンのステータス(New)

〇――Unknown――――

・【死ンデモ命ガアルヨウニ】

≪New≫└【下剋上げこくじょう】:多能技能マルチスキル。『自身よりLevelの高い相手との戦闘時』のみ発動。Level差に比例して全能力が上昇~激化補正する。戦闘終了時、上昇値は戻る (※対象が複数の場合は適用範囲内で一番Levelの高い対象が適応される)


・耐久力上昇補正、筋力激化補正。『戦闘時』のみ発動。『戦闘経過時間』に応じて、筋力、耐久力、体力が微上昇し続ける。戦闘終了時、上昇値は戻る


・体力上昇補正、耐久力激化補正。『戦闘時』のみ発動。『戦闘経過時間』に応じて、筋力、耐久力、体力が微上昇し続ける。戦戦闘終了時、上昇値は戻る


・敏捷力上昇補正、抵抗力激化補正。『戦闘時』のみ発動。『戦闘経過時間』に応じて、潜在力、抵抗力、敏捷力が微上昇し続ける。戦闘終了時、上昇値は戻る

 └(技能:〈怪力乱神〉〈不撓不屈〉〈堅忍不抜〉)



※称号

(器)

≪New≫【夜人ノ血族・白夜】:夜人の変異種として生まれた存在。体力、敏捷力激化補正。血統技能【暁天ニ呵ウ鬼】取得


≪New≫【勇敢ナ者】:絶望的な状況に置いて、他者のために動けた者。全能力微上昇


≪New≫【支配サレシ者】:隷属、傀儡として従い続けた者。耐久力、抵抗力、体力上昇補正。上位技能【生ヘノ執着】取得


≪New≫【餌食トナル者】:生存のために生物を生きたまま食した者。上位技能【大悪食】取得


≪New≫【失ワレシ肉体ノ者】:肉体的な一部を失いながらも生き延びた者。耐久力、体力上昇補正


≪New≫【刃ニ刻マレシ者】:刃物によって体を深く刻まれて死んだ者。刃物、切断に対し強くなる



≪New≫【耐エ忍ブ者】:様々な苦痛に耐えた存在。全能力微上昇。上位技能【苦シテ楽ナシ】取得


≪New≫【死線ヲ越エシ者】:死の蘇生を繰り返し、限界を超えた存在。全能力上昇補正


≪New≫【無慈悲ナル再生者】:再生を繰り返す者。その中でも過酷で冷酷な再生を体験した存在。全能力上昇補正




◇サクのステータス(New)

〇――Unknown――――

・【--】

└〈--〉

≪New≫└【刀心桜花とうしんおうか】:多能技能。刀剣類装備時、全能力上昇補正。『戦闘時』のみ任意発動。戦闘経過時間に応じて、全能力が断続微上昇。戦闘終了時、上昇値は元に戻る


・刀剣類装備時のみ発動可能。任意で『居合』による攻撃時、『斬撃威力』『精密動作』激化補正。使用後、一定時間耐久力、抵抗力低下補正


・刀剣類装備時のみ発動。『移動中』の攻撃時、抵抗力、体力上昇補正。耐久力、敏捷力激化補正。


・刀剣類装備時のみ発動可能。『抜刀』した回数が蓄積される。蓄積数に応じて、任意の『一撃』に『斬撃範囲』『斬撃威力』上昇~激化補正。筋力、耐久力上昇補正。(抜刀蓄積数:1↑)


・刀剣類装備時のみ、『魔力』を宿したものを斬ることで、装備品に『魔力が蓄積』される。蓄積魔力量に応じて、任意の『一撃』に『魔撃威力』『斬撃威力』上昇~激化補正。(魔力蓄積値:0/100)

 └(技能:〈居合絶刀〉〈紫電一閃〉〈月華美刃〉〈纏魔ノ太刀〉)



※称号

(器)

≪New≫【夜人ノ血族】:夜人として生まれた者。敏捷力激化補正。血統技能【夜ヲ纏ウ者】取得


≪New≫【】:。抵抗力低下補正


≪New≫【支配サレシ者】:隷属、傀儡として従い続けた者。耐久力、抵抗力、体力上昇補正。上位技能【生ヘノ執着】取得


≪New≫【耐エ忍ブ者】:様々な苦痛に耐えた者。全能力微上昇。上位技能【苦シテ楽ナシ】取得


≪New≫【餌食トナル者】:生存のために生物を生きたまま食した者。上位技能【大悪食】取得


≪New≫【囚ワレシ寂寞者セキバクシャ】:牢の中で孤独に苛まれ、心が耐えられなかった者。抵抗力微低下補正


≪New≫【空虚ニ沈ム者】:何も感じず、心を空っぽにして死んでしまった者。孤独、絶望に対し強くなる



≪New≫【夜闇ノ牢獄者】:絶望的な状況の中、最後まで生きようと足掻いた存在。全能力微上昇


≪New≫【希望ヲ奪ワレタ者】:生きる希望を取り上げられた存在。全能力上昇



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