第49話

たとえばなにが起こるか分からないこの世の中で、一度離れた人間同士が再び会えるのは奇跡なのではないかと思う。


それはたとえ「また明日ね」だとしても、明日が来るだけでそんな当たり前に感謝したいと思ってしまうときがある。



いまはそれに限りなく近い気がした。



「ロウ?」


「……ごめん、待たせた」


「待っててとか言わなかったくせに」


「葉月は待ってるって確信があった」


「なにそれ気持ち悪い」



「あら彼氏? え? え? え? あたしお邪魔かな! 帰るね! またね!」



さっと立ち去ったカエデ。気を利かせてくれたのかな。今頃スマホでマナさんに電話してるに違いないけど。



「ロウ、おかえり」


「ん」


「帰ろっかー」



出口に向かって進んでいると、後ろで立ち止まるのを感じた。



「俺のこと振らないの?」


「なんでいまも付き合ってる前提の会話なの?」



とりあえず店内で話したくないから外に出たいんだけど。ガヤガヤしてて声が聞き取りづらくて。私、耳悪いから。



ロウの腕を引っ張って外に出た。そのまましばらく走り続ける。冷たい冬の風が頬に突き刺さって痛い。痛いけど、これは現実。



私の手が掴んでいるこの腕は紛れもなく、ロウなんだ。



――泣くかもしれない。



「ロウ……」


「あれ?」


「なに?」


「俺らもう別れてたの?」


「別れてないけど!?」


「なんでキレてんの」


「だってさ、生きてるとは思わなかったんだよロウが!」


「勝手に殺すなよ」



違うってそうじゃないんだって。

わけわかんない。


コンクリートに雫が落ちる。私の涙なんだと気付いたら、なんか分かんないけど止まらなくなった。



「うわーん」


「本当に泣きながらその声やめて」


「うわーんって泣きたい」


「願望もやめて」


「なんで会いに来たの、」


「いやごめん偶然、いた」


「私が!?」


「ん」



……ひどすぎる。


せめて嘘でもいいから好きだから会いに来たよ! とか言えよ! 涙が引っ込んだわ。

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