椎心泣血
第42話
――――――――……
ヒナ兄は一命をとりとめた。
ロウはあの事件の後まもなく逮捕され、私はいま一人きり。
一人より独り。
そんな孤独感に苛まれたりしている。
――銃声を聞きつけた近所の住民が110番通報したのがきっかけで、重傷のヒナ兄がまず救急車で運ばれた。その時ヒナ兄は私にこう言った。
『殺さなかったことを後悔する』そしてなにより『アタシはアンタより美しい』と。
美しい罪人は呆気なく散った。それでも不敵に笑って、彼は最後まで強気だった。
そもそも、本当の意味でこの事件を引き起こしたのは私の“私はやってない”発言ではなかった。
始まりは私が中学生の頃の話だ。私はそれなりに可愛いと言われていた。早くから化粧に手を出していたというのが理由だ。
その年頃の女の子が使う“可愛い”は化粧をしているという大人びた行為に向けられたものだったのだと思う。
垢抜けた人になりたくて、美人なモデルさんみたいになりたいって化粧ばっかりが進んで私自身を置いていった。
大人びてることをして大人ぶった。年上の彼氏と付き合って高級なお店に連れて行ってもらったり、煙草を吸ったりお酒を飲んだり悪い人とつるんだりクラブに通ったり、援助交際でおっさんに身体を売ったり。
どんどん堕ちていく自分に気付いた時には、もう手遅れだった。自分の顔が憎くなって、汚らわしくて。怖かった。
もともと私は活発な方ではない。消極的で好奇心もなく。それなのに無理して頑張ってたみたいな自分がとてつもなく嫌いになった。
ある日ぱったりと化粧をしなくなって学校に行き、あまりにも自分がモテないことを知った。ああもともと私は綺麗なんかじゃなかったんだと。
それまで関わっていた男子にも距離を置かれ、女子からは「化粧で詐欺ってる売春女」と悪い話だけが広がって。嘘じゃないからなにも言い返せなくて。
過去の自分を殺したかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます