第38話

ああやだやだ。余計に殺意が湧いた。それを言っておいてロウは殺すなって言うの? まあ武器を失った私なんてガラクタに過ぎないだろうけど。



「――葉月、」


「来ないで」



ヒナ兄の一歩と同時に私は後退る。距離を縮めない。全身の鳥肌と震えが止まらない。この人はどうしてこんなにも怖い人になってしまったの?



ロウはどうして役に立たないの? 私を助けてくれないの? 脚を撃たれたって私を助けてって思うのは傲慢だろうか?



この世の全てを疑いたくなる。真実なんていらないとすら思える。知らないというのは幸せなこと。



ヒナ兄が私をいじめさせたのは、ヒナ兄の私に対する愛情だと言うのだから。そんなもの信じたくない。



純粋に好きだと思っていた、過去の自分が滑稽過ぎるでしょ!?


馬鹿にして嘲笑って、生死を彷徨うほど苦しんでる姿を拝んで! それで愛してるよって、頭イッてるわ。



――顔が強張っているのか、頬が引き攣ってその動きが自分の視界に僅かに入っている。



そうしている間にヒナ兄は私に寄ってくる。私は下がるが、壁に触れるのを感じた。絶望? そんなんじゃない。絶望ってのはもっと、死ぬほど、苦しいこと。



「来ないで!」


「声を張り上げて、喉を痛めるよ」


「そんなの関係ない!」



悲痛な叫びだった。

遠くから自分を見つめている気分。これは誰の声なのだろう。私は私の声を聞いていた。



そろそろ終わりだ。

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