第31話
「俺はお前を苦しめた奴を殺した。中学生の頃だ。忘れちゃいないだろ」
「……」
どうして今それを掘り返すのか、なんとなく察しはついていた。私がヒナ兄にポロっと言ってしまった言葉が引っかかったからだ。
“殺したのは私じゃない”
そんなことを語るべきではなかった。何年経ったって口を閉ざしておくべきだった。こんな滑稽なことがあるか。ロウに迷惑をかけたのは私自身だ。
「殺したのは私だったの」
「は……? 何言ってんだお前」
そう、本当の本当は私。私が殺した。あの憎たらしい顔を潰してやったのは私。鬱陶しかった。耐えられなかった。ロウのせいじゃない。
「ロウが罪を被る必要なんてないよ」
「……は?」
「え?」
ロウもヒナ兄も困惑している。きっとその心の中に確信がないから。違う。ロウの中には確信はある。私の言動の理由を探っているんだろう。
ヒナ兄に関してはもうあれだよね。こっちのもんだよ。お互いよく分かっていなかった。いまだに。
「私が高田を殺ったの。私は私であるのに私ではなかった。分かる? 人を殺している自分をその上から見ているような気分。こいつが人を殺したけどこいつは私じゃないって思ってたよ」
「……何言ってるの?」
「俺が殺ったんだよアレは」
ばーか。
やめてよ。
「ぜーんぶ嘘だよ! だってロウには人なんて殺せない。憎しみも知らないような善人が人なんて殺れない。全部私の仕業なの」
「……なんでアタシに嘘をついたの?」
“私じゃない”って言葉のこと。そうか信じたのか。いまの私の言葉を。どっちが正解かなんて分からないからね。
「ヒナ兄間違ってるよね。ロウより私を殺したほうが良くない?」
「話を聞きなさいよ」
「ヒナ兄は私を殺せない? 直接手を下すって言ったって皮膚や肉を切るでも裂くでもないのに、そんな銃ですら殺せない? ヒナタを殺したのがヒナ兄だってことくらい知ってたんだよね、私」
「……!?」
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