第32話

息が上がっていたのは演出。しばらく玄関前にいた。ヒナ兄がなにを企んでいるのかは定かではなかったけど、ロウを殺そうとしてることだけはよく分かっていた。



邪魔だから。

だってヒナ兄、歪んでるしね。



「ロウを殺すより私を殺したほうが絶対いいよ。永遠にその苦しい感情はヒナ兄に芽生えなくなるはずだから。なんでツライか分かる? 教えてあげるよ。私が目の前にいるから――それだけ」



ヒナ兄は相当面倒臭い人だ。私やロウを面倒臭い人間という資格もないくらい面倒臭くて、更にはややこしい感情論をぶつけてくる。



しまいにはあれだ。歪み過ぎていて凡人の脳みそでは理解がついていかない。なかなか気づくまでに時間がかかったね。



「ヒナ兄、私を殺して」


「……」


「ねえ」


「……無理だ」


「え?」



ロウはじっとヒナ兄を見つめていた。その目は澄んでいて、私の濁り曇ったものとは違う。



どうして銃を持つ人間に怯えることさえなく、恐怖や憎しみを抱かないのか……私にはロウが一番分からない。



「ヒナ兄は分かりやすかった。難問ではあったけど、ロウは私の中で超ど級だから」


「……あ? お前俺をなんだと、」


「アンタは黙ってろ!」


「!?」



ヒナ兄が声を張り上げる。ロウは驚いた顔をした。


ヒナ兄は裏の裏の裏を行く。

だから当たり前は通用しない。




「――俺は」




……ヒナ兄?

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