予約

第27話

『堀田さん。』



「……、」



『……堀田さん!』



「……、」



『……と、智哉、さんっ』



「なに?」




三回目でやっと名前を呼んでくれた彼女の方を向いて、ニッコリと首を傾げる。



向いた先、三つ下の部下である楠原岬は、顔を赤くさせて、少し涙目で俺を睨んでいた。


そんな顔しても、怖くねぇっつーの。




『もう!一回で返事して下さい!』



「二人っきりなのに名前で呼ばない岬が悪い。」



『な…っ、だって、会社ですし!』



「会社だろうが外だろうが俺には関係ねぇよ。」



『~~~~~…っ、』




余裕たっぷりに笑ってみせると、これ以上反論出来ないのか、岬は口をぱくぱくとさせる。



18時を過ぎた企画部署内には、自分が言葉に出した通り、俺と岬の二人しかいない。



必然的にそうしたのではなく、たまたま偶然、この時間まで残業していたのが俺らだけだったのだ。




「てか、何の用事だっけ?」


『え?…あ、もう、お仕事終わりそうですか?』


「あぁ。戸締まりか?」


『はい。しちゃっても良いですか?』



いいよ、と言うと、岬はそそくさと窓辺に向かう。


すっかり暗くなった外の風景を視界に入れながら施錠をしていっているその姿を、俺は横目でチラリと見やる。





……あいつが窓辺に近づく度に、もしかしてあいつは未だ、新藤さんを探してるんじゃねぇのかって、いつも思ってしまう。



探して、見つけて、叶えられなかった恋を思い出しては、想いを馳せているんじゃねぇのかって。




一ヶ月前、失恋して落ち込んで涙してたあいつにつけ込んで、“予約”なんて言って、自分の気持ちを告げた。



でも、あいつの想い人が新藤さんだとわかって、尚且つ失恋したとわかって


“チャンス”だと、思わなかったと言えば嘘になる。




ずっとずっと、岬が欲しかった。

俺の方を見て欲しかった。



今だって、カッコつけて余裕そうな態度を取っているけど、内心はすぐにでも岬の所に行って、窓辺に行くなと、その細い体を抱き寄せてしまいたい衝動に駆られている。




(情けねぇなぁ……。)



そんなガキみたいな自分に呆れて、はぁ、と、重たい息を吐く。




『………智哉さん?』



俯いていた所に、頭上から岬の声が聞こえ、俺はゆっくり顔を上げる。

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