第3話

「もし、ジネット姉様のお相手がヤーくんでしたら、可愛らしくて思慮の深い、とても魅力的な女性になるかもしれませんね」

「ぅうぇええええ!?」

「たとえば、ですよ。ジネット姉様」

「たとえば……と、言われましても……」


 具体的な名前が挙がったことで恥ずかしさが限界値に達したらしいジネット。

 顔が真っ赤だ。

 きっと服の下も全身くまなく真っ赤になっていることだろう。


「……でも、ちょっと待って」


 照れて一人であたふたわたわたするジネットを眺め、エステラが眉間にシワを寄せる。


「ジネットちゃんの可愛さを持った、精神面がヤシロの女の子…………って、四十二区が裏から支配されない?」

「い、いえ、そんなことはっ。き、きっと、陽だまり亭でのんびりとお料理するのが大好きな大人しい子に育ちますよっ」


 テンパり過ぎて何を口走っているのか分からなくなっているのであろうジネット。

 育ててんじゃねぇよ、想像の中で。


 そんな中、ロレッタとマグダとカンパニュラとテレサが同じポーズで腕を組んで一言ずつ言葉を発していく。


「店長さんの可愛さと……」

「……ヤシロの人心掌握術」

「料理の腕と細工の腕は遺伝により天性のものをお持ちでしょうし」

「なんでもつくれる、の!」

「うっわ、怖っ!」

「おい、失敬だったよな、今のエステラ」

「そ、そうですよ、エステラさん。まだ何も悪いことをするとは決まっていませんのに」


 ジネットがエステラ相手にぷりぷり怒っている。

 なるほど。

 こいつは娘と親友だと娘の肩を持つのか。


 ……まぁ、いないんだけどな、そんな娘なんて。


 しかし、ジネットの顔とプロポーション、特に最強のおっぱいを有し、俺の人心掌握術をマスターした美少女か…………


「うん。四十二区くらいチョロいな」

「ジネットちゃん、しっかりと止めておいてね!」

「あ、あの、ヤシロさん、ダメですよ!?」


 だから、いないんだって、そんな娘。


「でも、なんとなくですけど、お兄ちゃんの息子だったら、物凄く甘えん坊になりそうな気がするです」


 そんなロレッタの勝手な意見に、ジネットが「くすっ」っと分かりやすく吹き出す。


「そうですね。……ふふっ、なんとなく、わたしもそんな気がします」

「ですよね! 絶対お母さんから離れない甘えん坊になるですよ」

「まぁ、このおっぱいは俺のだけどな」

「違いますよ!?」


 なんでだ!?

 夫婦になったら俺のだろう、もはや!


「てんちょーしゃとえーゆーしゃのこども、いたら、ひままりてい、あんしん、ね」

「いや、テレサ……『陽だまり帝国』くらい巨大化しそうで空恐ろしいよ、ボクは」


 自身の二の腕をさするエステラ。

 食堂が帝国になった例は、いまだかつてなかったろうな。


「では、エステラ姉様とご結婚された場合はどうでしょうか?」

「えっ!?」


 素っ頓狂な声をあげて固まるエステラ。

 あのなぁ、話の流れで自分に矛先が向く可能性くらい分かりそうなもんだろうが。

 取り乱すなよ、こんな他愛もない無駄話で。


「え…………っと、……それは、つまり…………」

「……ヤシロがおっぱいに飽きた世界線」

「ちょっと待ってよ、マグダ! ボクが成長した可能性だってあったはずだよ!?」

「……あはは、そーだねー」

「棒読みここに極まれりかい、君は!?」


 マグダがエステラをからかっている。

 ナタリアが不在の時はマグダが代打を務めるんだな。

 ……絶対必要なのか、エステライジり要員?


「つまり、ヤシロが四十二区の領主になる……ってこと、だよね?」

「よし、トップス禁止令を発令しよう!」

「よし、君には絶対領主の座は渡さない」


 隣の席から右手が伸びてきて俺のこめかみを「これでもか!」と圧迫する。

 こんなことで挫けるものか!

 トップスなき政策!

 心の自由と解放を!

 谷間、乳下の汗疹の撲滅を私はここに宣言する!


「冗談はさておき」


 と、俺の政策を冗談呼ばわりするカンパニュラ。

 強くなったなぁ……

 割と真面目なんだけどなぁ、俺。





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