第4話

「ヤー君とエステラ姉様のお子様が跡継ぎになってくださるなら、四十二区は安泰ですね」

「だがなぁ、きちんと生き延びられるか……」



☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡


エス子「ままぁ……おなかすいたよぉ……ひもじぃよぉ…………みるく……あ、無理言ってゴメン」


☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡



「――と、このように!」

「胸がなくてもおっぱいは出るから! っていうか、なくないから!」

「エステラさん、実の子に気を遣わせるのはちょっとどうかと思うです」

「気なんか遣わせないよ!? っていうか、『無理言ってゴメン』ってなにさ、ヤシロ!?」


 だってさぁ、……なぁ?


「……しかし、ヤシロがエステラと結婚すれば、クレアモナ家の呪いを確実に阻害する」

「やったですね、エステラさん! クレアモナ家の未来は明るいですよ!」

「今でも十分明るいし、呪いなんかないから!」


 嘘を吐け!

 心当たりと確固たる証拠があるはずだ!

 自分の胸に聞いてみろ! 二つの意味で!


「ヤシロ、うるさい!」

「この二人が結婚すると、領主の館がずっと賑やかですね」

「……賑やか過ぎるきらいがある」

「では、エステラ姉様をサポートする、ナタリア姉様がお相手だったらどうでしょうか?」

「え……ナタリアとヤシロの子供………………」


 エステラが、そんな未来を脳内に思い浮かべる。



☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡


ナタリア「エスペタ様」

ヤシロ「こら、主の名前を間違うな。エスッカスカ様だ」

ナタ子「父様、母様、お戯れは程々に。エスツルーン様に失礼ですよ」


☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡



「領主権限を使ってでも妨害してやる!」


 なんだか、面白い未来を想像したらしい。

 エステラが瞳の奥に不屈の炎をたぎらせている。

 無駄なエネルギー使っとるなぁ。


「では、ロレッタ姉様がお相手だと、どのようなご家庭になるでしょうか?」

「えっ!? あたしもやるですか!?」

「君が言い出したことじゃないか」

「想像するだけはタダですよ、ロレッタさん」


 とか言いつつ俺を見るな、ジネット。

 別にタダだからって喜んだりしないから。


「そ、そうですね……あたし、実は結婚には憧れがあるです。理想の結婚像というか、『こういう家庭を築けたらいいなぁ~』っていうのを思い描いてるです」



☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡


ヤシロ「ただいまぁ~」(ドア「ガチャ……むっぎゅぅぅうううううあああああああっ!)

ハムっこ「「「「うははーい、みっちみちの、お出迎えやー!」」」

ヤシロ「くっ……開かないっ!」


☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡



「違うですよ、お兄ちゃん!? どんだけみっちみちに詰まってるですか、我が家!? で、それさっき頬ぶくろ亭で似たようなことやったですからね!」


 なんだよ。

 お前の家庭なんて、多かれ少なかれこんな感じになるだろうが、どーせ。


「ロレッタさんが思い描く理想の家庭って、どんな感じなんですか?」


 ジネットが尋ね、ロレッタが照れながら理想を語る。


「あのですね、あたしが仕事を終えて家に帰ると、美味しそうな夕飯の匂いが外までしてきてるです」

「待て。なんでお前が働きに出て、俺が主夫やってんだよ?」

「だって、お兄ちゃんの方が料理も家事も日曜大工も、なんでもかんでも得意じゃないですか!? あたし、外で働くくらいしか出来ないですよ!? それに働くの大好きですし!」


 あぁ、こいつは長らく働きたくても働けない時期があったからなぁ。

 本当に働くの好きで、働いている時はすげぇ楽しそうにしている。

 それに、もう結構陽だまり亭でのウェイトレス歴も長いし……すっかりジネットに感染しちゃったのだろう。あの不治の社畜ウィルスに。


「で、お前の帰りを待ちながら飯を作ってればいいのか?」

「そしたらですね、笑顔で出迎えておかえりって言ってほしいです!」

「……裸エプロンで」

「うわっ、ロレッタえっろ」

「言ってないですよ!? マグダっちょ、変な茶々入れないでです! ちゃんと着衣で出迎えてです!」

「……ヒューイット家の掟・第一条『服は着る』」

「どこのご家庭でもそれが普通ですよ!?」


 ロレッタがマグダとじゃれ始めたので、ロレッタの言う理想の家庭というものを想像してみる。



☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡


ロレッタ「ただいまで~す」

ハム摩呂「長女のご帰宅やー!」

次女「おねーちゃん、おかえりー!」

妹「「「うははーい!」」」

弟「「「うほほーい!」」」

息子「「「うははーい!」」」

娘「「「うははーい!」」」

ヤシロ「うははーい!」


☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡



「なんで弟妹がこんな居座ってるですか!? 真っ先に出てきたのハム摩呂だったですよ!? あと、お兄ちゃんが思いっきりハム摩呂に寄っていってたです!」

「……弟の『うほほーい』はスルー」

「どーでもいいですよ、そんな小さいとこ!? それ以外が異常事態過ぎたです!」


 どう転んでも賑やかな家庭になるよ、お前の家は。

 明るいとか楽しいを通り越して騒がしいとか騒々しいになるんだろうな。


「たぶん、ロレッタ一家が自宅に駆け込んだら、家が一回向こう側にたわんで『ぷるんっ!』って揺れる」

「そんなおもしろハウスには住まないですよ!?」

「……ウーマロに建設可能か、聞いておいてあげる」

「いらないですからね!?」


 面白いと思うけどなぁ~。

 ゆかい~なロレッタさ~ん♪ ってさ。





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