【Interrude. Teacher’s report】

「はあ……。」

執務室で、わたし――白月雪乃はひとり、頭を抱えた。理由は一つ。九王忍だ。

「話し過ぎました……。」

補講のとき、適当にお茶を濁せばいいところをついつい余計なことを口走ってしまった。あれじゃあ背負ってくれと言っているようなものだ。我ながら教師としていかがなものか。ため息も出るものだ。不幸中の幸いと言うべきか、「制約」のことは口にせずに済んだが、それでもかなりのことを、いち生徒相手にべらべら喋ってしまった。明らかに喋りすぎである。気でも抜けていたか、それでも無意識に「そうしたくなる」何がしかがあの子にあったのか。

「まあ、そういう、妙な雰囲気や魅力を持つ人というのは偶にいますが。」

とはいえ、今更後悔しても詮無いことだ。それよりも気にしなければならないことが、彼女絡みでもう一つある。

「魔導回路の制御練習初日の、それも初回で魔力をあれだけの距離を飛ばしたことにも驚きましたが、まさか初日でいきなり課題をクリアするとは。」

あの課題は本来一日でクリアすることを想定していない。現に、今まで教えてきた中で、アレを初日でクリアできた子はいなかった。あの子の姉、九王静は今まで教えたことのある全生徒の中でも……否、今まで出会ってきた魔女の中でも一番の大天才と呼んで良い類の才能の持ち主だが、それでもその域には達していなかった。そして、在りし日のわたし自身、あの課題を一日ではクリアできなかった。しかも彼女の場合的当ても成功させている。

「なるほど。確かに校長の言う通り『大天才』と言わざるを得ないかもしれません。」

彼女の魔力測定結果を見た校長が『世紀の大天才が我が校に来る。丁重に出迎えるように。』などと言っていたことを思い出す。確かに彼女の魔法適性はほぼ全ての魔法に対してSランクの適性値を示していたが、それはあくまで将来性。成長速度がどれほどのものかはわからない。『天才』と呼ぶべき才覚があるのは間違いようもなかったが、同時に、『世紀の』という形容を付けるならば成長速度、習熟速度も伴うべきである、などと考えていたが。なるほどこれは『世紀の』という形容にふさわしい成長速度だ。まあ、それはそれとして、魔女には、魔力の波動を感じることである程度視界内の魔女の能力や才覚を見抜く力がある以上、対面して、あるいはそうでなくともすれ違ったことがある、とかなら兎も角、測定結果だけ見て騒いでいたのは、いくら事実大天才だったとはいえ、騒ぎ過ぎだが。

「はてさて。どうなることやら。」

あの子のルームメイトのことを思う。意識している人物の妹で、おまけに自分と同じオールラウンダー適性持ち。意識しないわけが無い。とはいえ、彼女たちはお互い最終的な得意分野は別方向になりそうだし、お互い良い刺激を与えあってほしいものだが。

「さてと、いつまでも一人の生徒の事ばかり考えていられません。仕事に戻らねば。」

そう呟き、わたしはデスクの書類に目を戻した。

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