第二章 恋美と空くんの出会い

――――第二章 恋美と空くんの出会い。


 学校生活は、恋美にとって決して楽しいものではなかった。運動神経も勉強も人並み以下。明るく活発なクラスメイトたちの輪にはなかなか入れず、いつも一人でいることが多かった。特に、藤柳 百々ふじやなぎ とどを中心としたグループからは、些細なことでからかわれたり、陰口を叩かれたりすることが日常茶飯事だった。家に帰っても、恋美の心は安らぐことはなかった。両親は共働きで忙しく、家にいる時間はほとんどない。それなのに恋美に対する期待は重く、成績のことでいつもけんかになる。一人で過ごす部屋は静かで、時折、押し寄せる孤独感に襲われた。そんな時、恋美が心の支えにするのは、クラスの人気者である空くんの笑顔だった。

 空くんはいつも明るく、誰にでも分け隔てなく優しい。小学校の運動会の時、転んで泣いていた恋美に、空くんは屈託のない笑顔で手を差し伸べてくれた。「大丈夫?立てる?」その時の空くんの笑顔は、今でも恋美の心に鮮やかに焼き付いている。それから中学生になった今でも、恋美にとって空くんは憧れの存在で有り続けた。つらいことや嫌なことがあっても、空くんの笑顔を思い出すだけで、少しだけ心が軽くなった。成績優秀で音楽万能なピアノ少女、夜森 詩葉よのもり しふぁちゃんと付き合っている空くんは、恋美にとって遠い存在だということは分かっている。それでも、教室でふと目が合った時、廊下ですれ違った時、空くんがくれるほんの少しの微笑みが、恋美の一日を明るく照らしてくれた。空くんへの想いは募るばかりで、いつしか恋美の中で、空くんはなくてはならない存在になっていた。彼の笑顔がなければ、きっと毎日のつらいことを乗り越えられない……そう思うようになっていた。

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