隣のクラスが最強タッグ!? B

ゲンラーク

第1章 隣のクラスが最強タッグ? 短編B

1:六花学園の朝


朝日が廊下に差し込む六花学園。まだ人気の少ない校舎に、青野冷の足音だけが静かに響いていた。彼はいつものように無表情で、周囲の空気に溶け込むことなく淡々と歩を進める。


「今日も来てしまった…」

心の中でそうつぶやきながら、冷は自分の教室へと向かった。クラスメイトたちが徐々に集まり始め、朝の挨拶を交わす声が聞こえる。しかし、彼に声をかける者はいない。彼もまた、誰にも声をかけようとはしなかった。


「おはよう!みんな元気?」

教室のドアが勢いよく開き、明るい声が響き渡った。赤井温だ。隣のクラスだが、その存在感は校内のどこにいても際立っていた。複数のクラスメイトに囲まれ、笑顔で会話を楽しんでいる。


冷は窓際の席に着くと、昨夜の『Kingdom of Tactics』での戦略を思い返していた。徹夜でプレイした疲れからか、まぶたが重い。

「昨日のB-4地点での展開は少し無駄があった。もう少し効率的な…」

教師の入室と共に、彼の思考は中断された。授業が始まり、冷は表面上は教師の話を聞いているように見せかけながら、内心では次の戦略を練っていた。しかし、徐々に意識が薄れていく。


「青野くん、この問題の解き方を説明してくれるかな?」


突然名前を呼ばれ、冷は意識を教室に戻した。黒板には複雑な数式が書かれている。彼は一瞬だけ考え、無表情のまま立ち上がり、完璧な解答を述べた。クラスメイトたちからは小さなどよめきが上がる。


「さすが青野…」

「あいつ、授業中寝てたのに…」

冷は周囲の反応に無関心を装いながらも、内心では自分の不注意を責めていた。


「集中力が足りなかった。無駄な時間を過ごすことになった…今日は早めに帰ってゲームに集中しよう」

彼の心の中には、学校よりもゲームの世界こそが本当の居場所だという確信があった。



2:学年順位発表


昼休みを告げるチャイムが鳴り、校内放送が始まった。

「本日より、前期中間テストの結果と学年順位を掲示板に発表します。上位10名の生徒は放課後に校長室にお集まりください」

教室内が騒がしくなる中、冷は静かに席を立ち、廊下へ向かった。いつものように一人で食堂へ向かうつもりだったが、掲示板の前に人だかりができているのが見えた。


「見て見て!また青野が1位よ!」

「赤井さんは2位か…いつもの二人だね」

「でも差が縮まってるよ。今回は僅差だって」


噂話が耳に入ってくる。冷は特に気にすることなく通り過ぎようとした。しかし—

「青野冷!」

背後から呼び止める声に、彼は振り返った。

そこには腰に手を当て、不満げな表情を浮かべる赤井温が立っていた。彼女の瞳には明らかな闘志が宿っている。


「また私の前に立ちはだかるつもりね。今回はほんの2点差だったわ」

温は人目もはばからず彼に近づき、真っ直ぐに目を見つめてきた。周囲の生徒たちが二人の様子を興味深そうに見守っている。


「…特に何かをする意図はない」

冷は淡々と答えた。内心では「なぜこんな場所でこんな会話をしなければならないのか」と困惑していた。

「次こそは絶対に抜かしてみせるわ。私を甘く見ないで」

温の声には自信と挑戦の意思が感じられた。彼女は学年2位という結果に納得していないようだ。


「…好きにしてくれ」

冷の素っ気ない返事に、温はさらに眉をひそめた。

「そのクールな態度もいつか崩してみせるわ。校長室、絶対に来なさいよ」

そう言い残し、温は踵を返して友人たちの元へ戻っていった。周囲からは小さな歓声や囁きが聞こえる。


冷は内心で溜息をつきながら、食堂へと歩を進めた。

「面倒だな…なぜ彼女はそこまで競争にこだわるのか。学校の順位など、将来何の意味も持たない」

しかし、彼の頭の片隅では、赤井温という存在が微かに引っかかっていた。あの自信に満ちた眼差しと、負けん気の強さ。それは彼が『Kingdom of Tactics』で出会う熟練プレイヤーたちとどこか似ていた。


「校長室か…給食を早めに済ませて行くか」

そう決めると、冷は黙々と歩み続けた。



3:放課後の青野


夕暮れ時、校舎に長い影が伸びていた。冷は校長室での表彰式を終え、静かに下校の途についていた。赤井温は最後まで彼に挑戦的な視線を送り続けていたが、冷は特に気にした様子もなく無表情を保ち続けた。

「次はもっと勉強するんだから!」

別れ際に温が言い残した言葉が、まだ耳に残っている。冷は肩をすくめ、駅へと向かった。


「彼女の情熱はどこから来るのだろう」

電車に揺られながら、冷は窓の外を眺めていた。駅から少し離れた場所にある彼のアパートは、叔父の名義で借りているものだった。両親を亡くしてから、彼は形式上は叔父の監督下にあったが、実質的には一人暮らしだった。


アパートに到着すると、彼は無機質に整えられた部屋に入った。食器棚には必要最低限の食器、冷蔵庫には簡単に調理できる食材がわずかに収められている。壁には両親との写真が一枚だけ飾られていた。

冷は制服を脱ぎ、簡素な食事を済ませると、部屋の隅に設置されたゲーム専用スペースへと向かった。最新型のVR機器が並び、高性能PCが置かれている。彼の生活費の大部分はここに投資されていた。


「さて…」

カーテンを閉め切り、部屋を暗くすると、冷の表情がわずかに変化した。無表情だった顔に、微かな期待の色が浮かぶ。彼はVRスーツを手に取り、着用準備を始めた。

「今夜も『Kingdom of Tactics』か…昨日の戦略を改良して、B-4地点からの展開を…」

彼の独り言は、ログイン準備と共に途切れた。現実世界での冷たく孤独な青野冷から、オンライン世界での伝説のプレイヤー「Absolute Zero」へと変貌する瞬間だった。



4:Absolute Zeroの世界


「ログイン認証完了。Welcome to Kingdom of Tactics, Absolute Zero」

システムの声が響き、冷の意識は虹色の光の渦に包まれた。現実から切り離され、別の世界へと移行する感覚。それは彼にとって、まるで本当の「帰還」のようだった。


目の前に広がるのは、六角形マスで構成された巨大な戦略盤。立体的な地形が起伏を成し、森林や河川、山岳地帯などの特殊地形が戦略的に配置されている。これが『Kingdom of Tactics』の中核となるバトルフィールドだ。


大型ロビーでは、多くのプレイヤーが自分のアバターを操作して集まっている。冷のアバター「Absolute Zero」が姿を現すと、周囲から視線が集まった。


「見ろよ、あれがAbsolute Zeroだ…」

「伝説の戦略家じゃん…」

「全盛期ランキング3位、最近は単独プレイばかりらしいぜ」


ささやき声が飛び交うが、冷はそれらを無視し、自分のステータス画面を確認していた。所持ランクや戦績、そして何より彼の誇りであるガチャで入手したユニットのリストだ。

「今日はどのユニットで行くか…」

彼はリストをスクロールし、数百体あるユニットの中から選りすぐった数体を精査した。SSRランクの「氷帝アレクサンダー」、Rランクながら使い勝手の良い「影走り」、そして最近入手したSランクの「神算鬼謀」。それぞれのユニットの特性と相性を頭の中で計算しながら、今日の戦略を組み立てていく。


冷はマッチング申請を出し、対戦相手を待つ間にマップ研究を行っていた。各マスの持つ特殊効果、地形ボーナス、視界制限のパターンなど、多くのプレイヤーが見落とす細部まで彼は把握していた。


「マッチング成立しました。対戦を開始します」

システムの声と共に、彼は戦場へとワープした。相手は攻撃的な編成で知られるプレイヤー。冷は状況を一瞬で分析し、「影走り」を選択した。

「地形効果を最大限に活用すれば…」

VRの中で冷の指先が繊細に動き、「影走り」が盤面を滑るように移動する。地形を利用した隠密行動で相手の視界から逃れながら、着実に陣地を固めていく。彼の戦略は地味だが確実だった。


相手が攻撃的なユニットで前進してきたタイミングで、冷は罠を仕掛けた。相手が気づかない地形効果の組み合わせにより、「影走り」の特殊能力「陰の跳躍」が発動条件を満たしたのだ。

「チェック」

冷の静かな呟きと共に、「影走り」が影から飛び出し、相手の主力ユニットを一撃で撃破した。相手のHPゲージが激減し、システムが「CRITICAL HIT」の文字を表示する。

「いや、マジか…どこから攻撃された?」

相手の混乱した声が通信から聞こえてくる。冷は無言のまま、次の一手を進める。完全に態勢を崩した相手は、数手後に降参のサインを出した。

「勝利しました。ランキングポイント更新」

冷のポイントがわずかに上昇したが、彼の表情は変わらない。予想通りの結果に、特別な感情は湧かなかった。


そのとき、システム全体にアナウンスが流れた。

「【緊急告知】本日より新モード『デュアルコマンド』を実装いたします。このモードでは、二人一組でのチーム構成が必須となります。ソロプレイヤーの方々は、マッチングシステムを利用するか、事前に相棒を探すことをお勧めします」

青野の眉が微かに寄った。内心の動揺を抑えながら、彼は思考を整理していく。


「二人一組か...面倒だな。相棒なんて探す気もない。マッチングに頼るしかないか」

これまで培ってきた緻密な戦略の全てが、未知の相棒という変数によって乱される可能性がある。冷は沈黙しながら、新たな戦況に対応するための思考を巡らせていた。自分が組むべき相棒の条件、連携すべき戦術、想定される敵の動き—全てを冷静に分析しながら、マッチングボタンに手を伸ばした。

「誰が来るにせよ...こちらのプレイスタイルに合わせてもらうだけだ」

彼の指がホバリングボタンに触れた瞬間、新たな戦いの扉が開かれようとしていた。



シーン5:Scarlet Pulseの登場


「マッチング中...」

冷のインターフェース上に表示されたステータスバーが徐々に進んでいく。彼は無表情を保ちながらも、内心では次の戦略を練っていた。

「デュアルコマンドでの勝率を上げるには、いかに相手の動きを予測し、自分の戦略に取り込むかが鍵となる。最悪のケースは、戦術を理解できない初心者との...」

「マッチング完了!パートナー:Scarlet Pulse」

冷の思考が遮られた。表示された相手の名前に、彼は一瞬だけ目を見開いた。

「Scarlet Pulse...あのFPSの世界チャンピオン?なぜこんなタクティクスゲームに?」


対戦ロビーに転送されると、すぐに通信が入った。

「やっほー!Scarlet Pulseだよ!よろしくね、Absolute Zero!」

元気の良い女性の声が、冷の耳に飛び込んできた。想像していた冷静なプロゲーマーのイメージとはかけ離れた明るさに、彼は一瞬戸惑った。

「...了解」

最小限の返答をする冷に、Scarlet Pulseは構わず話し続ける。

「あなたの戦略、YouTubeで見たことあるよ!すごく計算されていて素敵!私はもっと直感的に動くタイプだから、きっと相性いいんじゃないかな?」

冷は無言でキャラクター選択画面を開き、彼の得意とする防御型ユニット「氷壁の守護者」を選んだ。


「こちらは後方支援に徹する。君は前線で...」

彼の指示を遮るように、Scarlet Pulseは高機動型の「赤蝶の舞手」を選択した。

「私、動き回るの得意だから!Zero君の堅実な守りに合わせて、私が敵を翻弄する感じでどう?」

冷は内心で溜息をつきながらも、これは悪くない組み合わせだと分析していた。

「...好きにしてくれ。ただし、D-4地点とF-6地点は常に視界に入れておいてくれ」

対戦が始まり、相手チームは標準的なバランス型の布陣で現れた。冷は「氷壁の守護者」を要所に配置し、マス目の地形を利用した堅固な防衛線を構築していく。一方、Scarlet Pulseは「赤蝶の舞手」を操り、まるで実際に体を動かしているかのように俊敏に盤面を駆け回った。


「もっと策を練って動くべきだ」と冷が通信で伝えようとした瞬間、Scarlet Pulseの「赤蝶の舞手」が信じられない動きを見せた。連続した三つのマスを一気に跳躍しながら回転し、敵の守備の間隙を突いたのだ。VRならではの体感操作を極限まで活かした動きに、冷も一瞬言葉を失った。

「これって楽しいでしょ!」Scarlet Pulseの声には純粋な喜びが溢れていた。

しかし、その大胆な動きが裏目に出た。敵の待ち伏せに引っかかり、「赤蝶の舞手」が窮地に立たされる。

「Pulse、後退して。それは罠だ」

冷の冷静な指示が飛ぶが、Scarlet Pulseは構わず前進する。

「大丈夫!こういうのは勘で乗り切るの!」

冷は内心で焦りながらも、すぐに状況を分析し直した。

「...了解。ならばF-3に進め。私がカバーする」

彼はすでに三手先まで読んでいた。Scarlet Pulseの無謀に見える動きを利用し、敵の体勢を崩す作戦に切り替えたのだ。冷の「氷壁の守護者」が展開した防御バリアが、敵の視界を遮り、同時にScarlet Pulseの「赤蝶の舞手」の退路を確保する。


「わぁ、すごい!ちょうど私が行きたかった場所に道を作ってくれた!」

Scarlet Pulseの声には驚きと喜びが混ざっていた。冷は無言で次の指示を出す。

「B-7とC-9を結ぶラインに敵の主力がある。君は表から、私は影から挟撃する」

二人の動きが絶妙に噛み合い始めた。冷の冷静な戦略とScarlet Pulseの予測不能な動きが、相手チームを混乱させる。それは完全に計算された動きでも、純粋な直感でもない、二人だけの新たな戦術が生まれる瞬間だった。


「Zero君、私の次の動きが見える?」

Scarlet Pulseの問いかけに、冷は珍しく即答した。

「ああ。E-8から一気にG-6へ。敵の背後を取る動きだな」

「正解!じゃあ、行くよ!」

「赤蝶の舞手」がまるで実際の蝶のように舞い、敵陣の中心に突き進む。同時に冷の「氷壁の守護者」が放った特殊能力「絶対零度」が発動し、敵の移動を一時的に封じた。絶妙のタイミングでの連携に、相手チームは為す術もなく、中央のコアユニットを失った。

「Victory!」

システムの声が響き、勝利の表示が画面に広がる。

「やったー!最高のコンビだね、Zero君!」

Scarlet Pulseの興奮した声に、冷は静かに応えた。

「...悪くない連携だった」

それは彼にしては珍しい褒め言葉だった。内心では、想像以上の相性の良さに驚いていた。


「Scarlet Pulse...彼女の動きは予測不能だが、それがかえって自分の戦略を補完している。これは...興味深い」

「ねぇ、また組もうよ!このデュアルコマンド、私たちにぴったりじゃない?」

Scarlet Pulseの提案に、冷は一瞬考えた後、静かに頷いた。

「...構わない。次回も頼む」

「約束だよ!明日、同じ時間に会おう!」

ログアウト画面が表示される直前、冷は珍しく口元に微かな笑みを浮かべていた。それは彼自身も気づかないほどの、小さな変化だった。



6:現実世界への帰還


VRヘッドセットを外した冷の部屋には、深夜の静けさだけが満ちていた。時計は午前2時を指している。彼はゲームセッションが予想以上に長引いたことに気づき、わずかに眉をひそめた。

「明日の授業に響くな...」

しかし、その呟きには普段の厭世的なトーンがなかった。冷は伸びをしながら、今夜のデュアルコマンドでの戦いを振り返った。Scarlet Pulseとの連携は、彼の予想をはるかに超えたものだった。


「あの反射神経と直感...計算だけでは予測できない動き」

冷は珍しく興奮を覚えていた。通常、ゲームの戦略は全て彼の頭の中で計算され尽くしているため、勝利しても特別な感情は湧かない。しかし今回は違った。Scarlet Pulseの予測不能な動きが彼の戦略に新たな次元をもたらしたのだ。

「明日、同じ時間か...」

彼はスマートフォンのアラームをセットし、簡単に身支度を整えると、ベッドに横たわった。通常ならすぐに眠りにつくところだが、今夜は頭の中がScarlet Pulseとの戦いの光景で満ちていた。

「彼女の『赤蝶の舞手』の動きは、事前の戦略では組み込めない。しかし、リアルタイムで調整すれば...」

次回の戦略を考えながら、冷は徐々に眠りに落ちていった。

一方、同じ時刻、別の場所。赤井温は自室のベッドに腰掛け、VRヘッドセットを慎重に置きながら、頬を紅潮させていた。


「まさかAbsolute Zeroとチームを組めるなんて!あの伝説の戦略家と!」

温は興奮のあまり、ベッドの上で小さくジャンプした。彼女が『Kingdom of Tactics』をプレイする時間は限られていた。生徒会の仕事や家庭の事情で、プレイできるのは主に深夜のみ。それでも彼女はFPSやアクションゲームで培った反射神経と直感を活かし、短時間でトップレベルの実力を身につけていた。

「Zero君の戦略眼は本当にすごい...私の勘だけでは辿り着けないところまで読んでる」

温はスマートフォンを取り出し、明日の予定を確認した。生徒会の会議、放課後の特別授業、それに家庭教師のレッスン。どれも欠かせない予定だ。

「明日も忙しいけど...夜はきっと時間作れる!Zero君との約束だもの」

彼女は明日の学校のことを考えた。青野冷のことが頭に浮かぶ。学年1位の彼への対抗心は変わらないが、なぜか今夜は彼に対する感情に複雑なものを感じていた。

「あいつはクールすぎるのよね...もっと感情出せばいいのに」

そう思いながら、温は目を閉じた。明日の学校での青野との対面、そして夜のAbsolute Zeroとの再会。二つの異なる関係に思いを馳せながら、彼女も徐々に眠りについた。


二人は知らない。現実世界とバーチャル世界で、まったく異なる形で交わっていることを。そして、その交差が彼らの人生を大きく変えていくことになるということも。


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最後まで読んでいただきありがとうございました!


隣のクラスが最強タッグ? 短編B と同時に隣のクラスが最強タッグ? 短編Aも

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