第23話

「ごめん、迷惑だよね。名前もろくにしらないやつに付き合って欲しいなんて言われても」


「……わかった。付き合おう」


「あの、忘れ……え?」



私の言葉に彼は信じられないと目を見開く。

だから私はもう一度「付き合おう」といった。

切れ長の目を大きく見開いて彼は私を見つめる。



「ほ、ほんと…?」


「うん」



私は彼のことが好きではない。

だって今の今まで名前すら知らなかったんだから。

ならどうして付き合ったのかというと、単純に”彼氏”というものが欲しかったからだ。


周りは皆、彼氏彼女持ちで出てくる話題は専らもっぱらその手の話題ばかり

幼馴染の夏樹も、中学時代に一度だけ彼氏ができており、その話題についていけていたが、私は彼氏というものが一度もできたことがなかったため、一切話題についていけなかった。

それが少し、悲しかったのだ。


だから、まぁ”丁度よかった”のだ。



「これからよろしく。品川さん」


「あ、うん。よろしく。田端くん」



彼の笑顔は、ミステリアスでも色っぽいでもなく、どこまでも純粋な少年みたいな笑顔だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る