第8話

「田端君。なんでここに?ジュース買いに来たの?」


「ううん。購買にね。お昼ご飯買いにいってたんだ」



田端くんの手元を見れば焼きそばパンが握られていた。

ここの自動販売機の下は購買になっていて、今はその帰りなのだろう。

現在、昼休みは半分以上過ぎている。お昼ご飯を買って食べるにしては少々遅い時間だ。



「まだお昼食べてなかったんだ」


「え?ああ…うん。ちょっと忙しくてね」



笑みを浮かべて答える田端くん。

自然な彼の態度に図書室の件を知らなければ騙されていただろう。だがそこは言及せず「そっか」とジュースを抱えて教室へ向かう。



「よかったら隣でお昼食べてもいいかな?」


「ん?いいよ」


「やった」



花が綻ぶように笑う田端くんはちょっと可愛らしい。



「夏樹、ジュース買ってきたよー」



教室に入って夏樹の名前を呼べば彼女はむくりと体を起こす。そうして私を…否、私たちを見て顔をぐっと顰めた。



「ちょっと!」


「え?」


「傷心中のアタシへの当てつけ!?彼氏連れてくるとかどういう神経してんの!?」


「……あ”」



ぎゃんっと吠える夏樹に「そういえば彼氏に浮気されたから傷心してるんだった」ということを思い出す。

田端くんのことを考えていてすっかり忘れていた。



「あー、ごめん。確かに無神経だった」



これは私が悪い。

怒る夏樹に謝罪して後ろで困惑している田端くんを見る。

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