第31話

仕事中は飄々とした態度を崩さない俺が、後輩の前で情けない話をされたくないだろうと、気を遣ってくれたつもりらしい。


別にそんなことを頼もうと思って話し掛けたわけではなかったが、彼女がどこか楽しそうにしていたので、そういうことにしておいた。



その日会うことができなかったら大人しく諦めるつもりだったが、自分を虎視眈々と狙う男の前で、無防備に可愛らしく笑ってしまう郁ちゃんが悪い。



「顔色は、あのときより随分良さそうですね。安心しました」


「元々、体は丈夫な方なんです。ここ最近、無理をしすぎていただけで」


「お仕事、忙しそうですね」


「1つ片付けたら、その三倍業務が降ってくる感覚ですね。自分の処理能力が足りないせいです」


「周りからすごく頼りにされているんだろうなって、今日少し見ていただけでも思いました」


「優しいフォローをありがとうございます」



これくらいの褒め言葉、慣れているつもりだった。


どんな女の子も、大抵最初はにこにこと愛想がよく、手に入れた俺の情報の全てを褒めようとする。



ただ、上滑りするような言葉たちが、本当に心に響くようなことはなかったけれど。

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